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アリの大行列が教えてくれたこと――不殺生と暮らし、その先に待っていたDIY(第68話)

2026 8/23
連載記事 逆境のエンジェル
2026年8月24日

➤逆境のエンジェルとは

 アメリカで暮らす筆者が、異文化のなかで感じる違和感、人とのすれ違い、老いや心の揺れ、ときには自分自身の失敗を通して、「人はどうすれば、思い通りにならない人生をよりよく生きられるのか」を考えます。仏教の教えも交えながら、日常のなかにそのヒントを探す連載です。

➤前回のあらすじ

  「まむしに噛まれた!」と思い込み、人生で初めて救急車に乗ることになった筆者。笑い話のような実体験を通して見えてきた、仏教で説く「無知」と「正見」の大切さについて語っています。(第67話『「まむしに噛まれた!」と思った私が、本当に噛まれていたもの?』はこちらからご覧ください)。

目次

安心するのも束の間

 日本でムカデに刺されるという、とんだ災難に見舞われた筆者ですが、幸い大事には至らず、無事にアメリカへ戻ってきました。

 これでようやくひと安心。

 そう思ったのも束の間、この時期になると毎年のように現れる「恒例のお客さま」が、わが家のなかでせっせと行列をつくっていました。

 そう、アルゼンチンアリ(※)です。

※ 南米が原産のアリで、繁殖力が極めて高く、在来のアリを駆逐するなど、生態系への影響が危惧されている

アルゼンチンアリが台所とお風呂場に大行列

 暑くなる時期、わが家では台所やお風呂場など、水のある場所を中心にアリをよく見かけます。

 今年は、なんと台所とお風呂場の2カ所で同時営業。タイルのほんの小さな割れ目から次々と姿を現し、エサや水を求めて忙しそうに走りまわっています。

 きれいに一列になって進む一団がいる一方、なぜか列を外れて、別の方向へ進んでいくアリもいます。

「君はいったい、どこへ行くの?」

 そんなふうに眺めているだけなら面白いのですが、ときには書斎まで遠征してきます。

 仕事をしている私の腕の上を駆けまわり、チクリとした感覚に、思わず払いのけることもあります。

 さすがに、共存にも限度があります。

 そこで、困ったときのAI相談。

 調べてみると、目の前にいるアリを1匹ずつ退治するより、働きアリにベイト(エサ)を巣へ持ち帰ってもらう方法があるとのこと。

 さっそくベイトを購入し、アリが出入りしている場所の近くに置いてみました。

 数日たつと、あれほど忙しそうだった行列が消えました。

 そこで、入口になっていたタイルの割れ目をコーキング。

 「これで一件落着」

 そう思っていたのですが…


ベイトとコーキングでアリ対策――ところが別ルートが出現

 数日後。お風呂場へ向かおうとした私は、思わず足を止めました。

 絨毯の上を横断する、長い、長い、アリの行列。

 「えっ。今度はそこから?」

 昆虫が苦手な私は、一瞬ぎょっとしました。

 ところが、しばらく眺めているうちに、怖さよりも感心のほうが勝ってきました。

 以前の入口をふさいだら、別の道を見つけたようなのです。

 アルゼンチンアリは、仲間が残した化学的な道しるべなどを使いながら、列をつくって移動します。

 わが家のアリたちが、どのように新たな道を見つけたのかまではわかりません。

 それでも、人間が1カ所入口をふさいだからといって、

 「入口を閉められました。今年はこれで撤退します」とはならないようです。

 そこがダメなら、別の道。

 なんともたくましい。

 とはいえ、感心ばかりもしていられません。

 2度目も同じようにベイトを置き、行列が見えなくなってから、侵入口と思われる隙間をコーキング(専用材で埋める)しました。

 それから1カ月以上。

 いまのところ、大行列は見ていません。

 どうやら、今シーズンの攻防は、人間側に軍配が上がったようです。


仏教の「不殺生」とアリ対策――殺したくない、でも暮らしも守りたい

 ただ、ベイトを置きながら、引っかかるものもありました。

 仏教には、五戒の第一に不殺生戒(ふせっしょうかい)、つまり「生き物を故意に殺してはならない」という教えがあります。

 相手が人間であろうと、小さな虫であろうと、命であることには変わりありません。

 そう考えると、アリを巣ごと退治するベイトを置くことにも、やはり迷いがあります。

 だからといって、家のなかを何百匹ものアリが歩いていても、

 「仏教徒ですから、どうぞご自由に」

 というわけにもいきません。

 食べ物を扱う台所もあります。家を清潔に保つ必要もあります。

 人間には人間の暮らしがあります。

 ここに、教えの解釈と現実のむずかしさを感じました。

 今回、私は結局ベイトを使いました。

 ですから、「不殺生をきちんと守りました」と胸を張れる話ではありません。

 ただ、この経験からあらためて考えたのは、殺さなくてすむ命まで、むやみに奪わないことでした。

 虫を見つけた瞬間、反射的に踏みつぶす。

 必要以上に殺虫剤をまく。

 外に逃がせる虫まで殺してしまう。

 そうではなく、まず侵入口をふさぐ。

 食べ物や水を残さない。

 外へ逃がせるものなら外へ出す。

 それでも暮らしを守るために対処しなければならないときは、必要な範囲にとどめる。

 完璧にはできなくても、命を軽く扱わないことはできます。

 仏教の教えとは、正解か不正解かを決めるためのものではなく、自分が何をしようとしているのか、その心に一度、目を向けるためのものでもあるのだと思います。

 仏教では、何をしたかだけでなく、「どんな気持ちや思いでその行動をしたのか」も大切だと考えられています。

 だからこそ、「邪魔だから殺す」で終わらせるのではなく、

「ほかに方法はないだろうか」と一度考える。

 その小さな間が、大切なのではないかと思いました。

 そんなわけで、アリを殺さずにすむなら、まずは入ってこられないようにしよう。

 そう考えて始めたのがコーキングでした。

 今回のアリ騒動で、私は人生で初めてコーキングガンなるものを手にしました。

 しかし、コーキングの面白さに目覚めた私は、こだわりの強い性格から、当初は全く予期しなかった方向へと導かれていったのです……。

 次回の投稿は、コーキングに目覚めた私の、行き着いた先についてお話したいと思います。9月21日(月)夜7時を予定しています。

記事の一覧はこちら

※寺町新聞では、このほかにも数多くの連載記事を掲載しています。各連載記事はこちらからご覧いただけます。

(感想、メッセージは下のコメント欄から。みなさまからの書き込みが、作者エンジェル恵津子さんのエネルギーとなります。よろしくお願いします。by寺町新聞編集室)

連載記事 逆境のエンジェル

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この記事を書いた人

エンジェル 恵津子のアバター エンジェル 恵津子

アメリカで音楽療法の仕事に携わりながら、異文化、人との出会い、心の問題、社会などをテーマに執筆。日々の経験や感じたことを、心理学や仏教の教えと重ねながら、「逆境のエンジェル」「カルチャーブリッジ」などで綴っている。歌、折り紙、スヌーピー、和スイーツが好き。

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