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性格の違いから学ぶ巧みな生き方とは(第45話)

2025 5/16
連載記事 逆境のエンジェル
2025年1月27日2025年5月16日

➤逆境のエンジェルとは

「逆境のエンジェル」とは、アメリカで生活する筆者が、自らの人生をふり返り、いじめや身体障がい、音楽への情熱、音楽療法士としての歩み、異文化での生活、異文化間結婚、人種差別など、さまざまな体験・挑戦を通じて得た気づきと学び、成長をつづった物語です。

➤前回のあらすじ

 新たな年がはじまり、ニュースでさまざまなことが報道されるなか、いま一度、無意識の偏見について書いています。また、末尾にはハーバード大学の研究チームがつくった、ゲーム感覚のテストのリンクも掲載しています、(第44話「2025年、新しい年に向けて」はこちらからご覧ください)

目次

性格の違いが摩擦を生む?

 昨年の12月、大愚和尚の新刊『愚恋に説法』が刊行されました。それを読みながら、私たち夫婦のことを考えていました。

 夫婦や恋人関係でよく話題に上るのは「性格の違い」。たとえ仲がよくても、考え方や感じ方が異なることで衝突することは珍しくありません。

 特に夫婦やパートナー同士の場合、文化や生まれ育った環境までからんでくると、問題はさらに複雑になるものです。

 私たち夫婦も、まさにその典型例。国籍や文化だけでなく、性格まで大きく異なる部分があります。夫は大柄で私は小柄、なので見た目もまるで美女と野獣です(笑)。

 でも、実際のところは見た目とは逆で、夫は繊細で思慮深く、私はどちらかといえば行動派で物おじしない性格。自分でも「男性的エネルギーが強いな」と感じています。

 こうした違いはときに衝突を生みますが、見方を変えれば、お互いに学び合う絶好のチャンスにもなる。そう実感した2つのエピソードを、ここではご紹介したいと思います。

夫のエピソード:ユーモアで味方をつくる

 ある日、夫が新型コロナウイルスに感染し、自宅で療養していたときのことです。体調が急激に悪化し、重度の呼吸困難を起こしました。

 さらにアレルギー反応も疑われるような症状(原因ははっきりしていませんでしたが、いわゆるアナフィラキシーに近い状態)も示しはじめました。

 顔色が悪く、息もまともに吸えない様子に、私自身もパニック。あわてて救急車を呼んだのですが、番号を打ち間違えるほど取り乱していました。

 それでも、救急車が到着するころには、夫は少しずつ呼吸ができるようになり、なんとか歩けるまでに回復していました。

 ホッとする間もなく、ふたりの救急隊員が彼を車内に乗せると、私に対して「付き添いはできません」というのです。

 私は「黒人男性への医療差別が起きるかもしれない」と強い不安を覚えました。

 「自分も一緒に乗らなければ、何かあってもすぐ対応できない」と考え、救急隊員に食い下がったのですが、感染症対策などもあって認められませんでした。

 仕方なく、救急車のあとを自分の車で追いかけることにしました。しかし、救急車は家の前からなかなか動き出しません。

 ほんの数分だったのかもしれませんが、私には永遠に感じられました。

 「どうして早く病院に連れて行ってくれないの? 何か変な扱いをされているんじゃないの?」。

 不安といらだちが募り、思わずドアを叩いてしまったほどでした。すると救急隊員が扉を開け、笑顔でこういうのです。

 「奥さん、大丈夫ですよ。もうすぐ出発しますから。むしろ雨のなかで濡れて、あなたの方が風邪をひいてしまう。車のなかで待っていてください」。そういわれ、私は仕方なく彼らの言葉通り、車に戻りました。

 実際に走り出した救急車も、なぜかスピードを落として安全運転を徹底。結果的に、私も迷わず追いかけることができました。

救急隊員を笑わせた夫の機転

 後でわかったのですが、夫は救急車に乗せられた直後から、隊員さんたちにジョークをいっていたそうです。

 人種に対する緊張感があるときこそ、「ここで笑ってもらうのが自分の身を守る最善策だ」と感じ取ったのだとか。

 黒人として、医療現場での差別を日頃から身にしみて感じているからこそ、相手との関係を早いうちに和ませようと本能的に思ったようです。

 実際、そのユーモアが功を奏したのか、救急隊員たちは私が迷わずついて来られるよう、あえてスピードを緩めてくれたり、遠回りでも安全な道を選んでくれたりと、とてもていねいに対応してくれていたのです。

 到着後も夫はすぐにベッドに案内され、適切な処置が早々にはじまりました。

 命に関わるかもしれない緊迫した状況下でも、夫は「相手をリラックスさせる」ことを最優先に考えて行動し、その結果、味方を増やすことができたのです。

私のエピソード:痛みと待ち時間との闘い

 一方、その数カ月後のある朝、今度は私自身が病院へ運ばれることに。突然、左脇腹に言葉も出ないほどの激痛が走ったのです。

 呼吸をするのもつらく、あぶら汗が流れ落ちるほど。我慢できずに夫に助けを求め、急いで車を出してもらい、救急病棟へ向かいました。

 車椅子を押されながら受付に駆け込むと、そこから始まったのは長い長い待ち時間との闘いでした。

 緊急の患者が少なかったはずなのに、私に割かれる医療スタッフの時間はごくわずか。耐えがたい激痛を訴えているにも関わらず、なかなか順番が回ってこないのです。

冷たい視線と長い検査

 やっと名前が呼ばれて診察室へ行くと、看護師からは険しい目で「力を抜いて」といわれました。

 しかし、痛みで全身がこわばっており、血圧もうまく測れません。そんな私に対して、看護師はまるで、“大げさに痛がっている厄介な患者”に対するような表情を見せるのです。

 悲しみや不安に加え、怒りにも似たやりきれなさを覚えたのを思い出します。

 そこからも心電図やCT検査などを受け、痛みに耐えながら、合計10時間ほど滞在することになりました。

 付き添いの夫も診察室へ入れてもらえず、私は心細いまま。最初の痛み止めの注射を打ってもらえたのは、救急病棟に来てからかなり時間が経ってのことでした。

診断の様子から見える人種差別の影

 結局、私の症状は「尿路結石」で、命に別状はなかったものの、ものすごい痛みに耐え続けた結果、声はすっかり枯れ、体力もすっかり消耗しきっていました。

 アメリカの医療現場では、重篤でない限り入院させてもらえないことが多く、私もあっさり「痛み止めを出しておきました」といわれただけ。夫がようやく部屋に入れたのは、退院(というより帰宅)の手続きに入ってからのことでした。

 この体験をのちに振り返ったとき、「私たちの民族的なバックグラウンドに対する、無意識の差別や偏見も影響していたかもしれない」と感じました。

 アメリカでは珍しくないこととはいえ、「今後、自分たちが年老いていくとき、この国でしっかりした医療を受けられるのだろうか」という不安は正直、ぬぐいきれません。

 そして余談ですが、あのとき打ってもらった痛み止めはモルヒネ。いまや社会問題にもなっているオピオイド系鎮痛薬のひとつです。

 2時間おきに痛みが襲うたび、看護師を呼び止めて注射してもらったときの「痛みがすっと引いて、ホッとする感覚」が、いまも記憶に残っています。

 これが依存症につながる薬なのか。そうした人々がいることも、うなずける気がしました。

性格の違い、どう活かす?

 このふたつの出来事を通して、私は「性格の違い」について改めて考えさせられました。

 夫は相手の気持ちを読み取るのが得意で、ユーモアによって相手を味方に変える力があります。

 一方、私は考えるより先に行動しがちで、感情をストレートに表すタイプ。それで失敗もしますが、その行動力のおかげで危機を脱することもあるのです。

 もし私が夫の立場だったら、救急車のなかでジョークをいう余裕なんてなかったでしょう。「相手の警戒を解けば、自分のリスクが減る」と直感できる夫だからこそ、あの状況でユーモアという武器を使えたのだと思います。

 しかし、私が病院で受けた長い待ち時間の苦しみにも冷静に対処していたら、もっと我慢を強いられていたかもしれません。

 痛みに耐えきれず何度も看護師に声をかけたことで、ようやく痛み止めの注射をしてもらえたのです。言い方は乱暴だったかもしれませんが、行動しなければ状況は変わらなかったでしょう。

私たちにとっての「巧みな生き方」とは?

 恋人や夫婦に限らず、人との衝突の原因になることが多いのは「性格の違い」です。でも、それを拒絶するのか、学びの種とするのかは自分次第。

 私たちのように文化も性格も異なる部分の多い夫婦でも、お互いの強みを認め合い、いかに活かすかを工夫することで、思わぬ困難を乗り越えられるのだと実感しています。

 夫のように、緊迫した場面ほど小さなジョークで空気を和らげると、相手も構えを解きやすくなります。特に差別や偏見が根深い状況では、まず相手の心の壁を下げることが鍵になるのです。

 そして、私が痛みに耐えかねて看護師を呼び止めたように、自分を守るために、ときには“自己主張”が欠かせない場面もあります。すべてを我慢してしまうと、状況は変わりません。

 衝突を深刻化させるのは、相手との“違い”を責める姿勢です。むしろ、自分にない長所を「補ってくれる存在」として活かすと、新しい視点や解決策が見えてくるのではないでしょうか。

 私たち夫婦は、これから先もいろいろな問題に直面するでしょう。けれど、あのときの医療現場での経験は、大きな学びになりました。

 それぞれ異なる長所をもっているからこそ、ひとりでは見落としてしまうような解決策を思いついたり、お互いの弱点を補い合ったりできるのですね。

 違いを排除するのではなく、上手に取り込む。これこそが「巧みな生き方」なのではないか。そのように思います。

 読者のみなさまはどう思われますか?

 次回の投稿のテーマは、フードデザート(食の砂漠)について。食環境の格差が生む健康被害や、水の汚染問題について言及します。

第46話はこちら

記事の一覧はこちら

(感想、メッセージは下のコメント欄から。みなさまからの書き込みが、作者エンジェル恵津子さんのエネルギーとなります。よろしくお願いします。by寺町新聞編集室)

連載記事 逆境のエンジェル

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  • 2025年、新しい年に寄せて(第44話)
  • 【大愚道場2024・東京】~変えるべきは心から?身体から?~

この記事を書いた人

エンジェル 恵津子のアバター エンジェル 恵津子

アメリカで音楽療法の仕事に携わりながら、異文化、人との出会い、心の問題、社会などをテーマに執筆。日々の経験や感じたことを、心理学や仏教の教えと重ねながら、「逆境のエンジェル」「カルチャーブリッジ」などで綴っている。歌、折り紙、スヌーピー、和スイーツが好き。

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コメント

コメント一覧 (4件)

  • アサミヤ より:
    2025年2月9日 5:27 PM

    恵津子さん、こんにちは!

    大愚和尚の書籍を調べていてこちらの連載へとたどり着き、初めてコメントさせていただきます。

    今回の恵津子さんのエピソード、第24話の毅然とした対応を彷彿とさせて、かっこいい! と思いました。

    連載を通じて感じていることですが、不都合な事実(自身のなかにある「無意識の偏見」や、今回の記事のように、対処方法には長短があるので自分のやり方が常に正解ではないことなど)から目をそらさず、前向きに、より「巧みに」生きていこうとする姿勢を尊敬しています。

    格差や差別など(他人事ではない)アメリカの実情、なにより、恵津子さんの生き方から学びをいただくためにも、連載を楽しみにしています。

    貴重なご経験や知見をシェアしてくださり、本当にありがとうございます!

    返信
    • エンジェル 恵津子 より:
      2025年2月17日 7:33 AM

      アサミヤさん、コメントありがとうございます!

      大愚和尚の書籍をきっかけに連載へたどり着いてくださったとのこと、とても嬉しいです。

      第24話のエピソードも覚えていてくださったんですね。「かっこいい!」と言っていただけるとは…少し照れくさいですが(笑)、そう感じていただけたことがとても励みになります。

      無意識の偏見や対処の難しさは、私自身まだまだ学びの途中ですが、こうして考え続けること自体が大切なのかもしれません。

      アメリカの現状や、自分自身の経験を通して、少しでも何かお伝えできることがあればと思いながら書いていますので、楽しみにしてくださる方がいることが本当にありがたいです。

      こちらこそ、温かいお言葉をありがとうございました!これからもよろしくお願いいたします。

      返信
  • 駆け出しローズマリー より:
    2025年2月14日 6:36 PM

    いつも興味深く恵津子さんの記事を拝見しています。
    今回は外国での医療について。
    大変な想いされましたね。
    私にも似たような経験があります。
    恵津子さんの、言葉も文化も違う外国~といったハードルの高さはありませんが、20年前に夫の転勤で幼い子供二人と共に
    慣れ親しんだ土地から知り合いのない都会の土地に
    移り住んだ時です。

    慣れない土地と、幼稚園前の二人の子供を育てないと…
    という重圧やまた、運悪く引っ越してまもなく
    下の四歳になる息子が自宅アパートの二階の窓から
    足場を伝い
    普段は閉まっていた窓から転落する事故(幸いにもご近所さんの助けやすぐ傍で二つ上の長女がいつもと違う表情と泣き顔で『もしかしたら(弟が)しんだかも』と台所で調理する私に訴えたので早くに発見し長男も手当てが早かった事も相して軽傷にて済みました)

    『弱り目に祟り目』とは言いますが
    引っ越しの疲れや話し相手が子供のみ…という環境がいかに
    不慣れな母親の精神状態に影響するものと
    今になってタイムマシンがあるとすれば過去の自分を励ましたい気持ちになっています。

    自己のあとは、警察さんの聞き取りでした。
    警察さんによると私が慣れない初めての土地にて夫仕事忙しさを自身に目を向けるために私が長男に手をかけたのではとの疑い。
    娘がまず、どの場所にいたか、私が何をしていたかの
    幼稚児への聞き取りを偶然優しいお隣の初老の奥様立会いのもと話を聞かれたと後で長女より聞きました。
    ですので娘が見ていなかったら…

    ですので、話があちこちですが
    今回私が経験した『見知らぬ土地』での緊張感や
    戸惑い…子供にも伝わっていたようで
    その後の小児科での通院も予防注射ワクチンを嫌がったり
    学校へ行き渋り等子供の情緒にも多少影響があったようです。

    その後夫実家に入るのですが、
    住んで10年経過した今もなお
    都市部とは離れた地域性ということもあり、
    医療の『誤診』の話を聞くと
    近所の医療さんへ行く勇気が未だ出ず、
    主要地域へ移動距離はありますが、検診等は実家のある
    傍の地域へ出向いて検診を受けています。

    新しい地域へ慣れるまで~
    とは思いますが、生活に密接する自身の医療。
    恵津子さんが、感じたご主人が適切に医療が受けられるか
    どうかの不安などのお話伺って
    昔の体験談や現在の状況を照らし合わせるなど
    感じたことを乱文にて失礼しました。

    蛇足ながら、
    去る土日に大愚道場や慈縁の会へ参加させて頂き
    沢山の気づき、またご縁に感謝しつつ帰路につきました事
    合わせてご報告させて頂きます。
    大愚和尚様の何気ないYouTube動画一視聴者から、
    勇気を出して道場に参加する事で
    以前は夫婦の会話が少なかったところから

    『コミュニケーションは聞くことも同じ作用』と知り
    目から鱗で明らかに一年前とは違う夫婦のコミュニケーションをしていることに気が付きました事お知らせ致しますね。

    まだまだ、あまちゃんの仏道初心者ですが、
    『日常五心』や『慈悲喜捨』の教えを繰り返し唱えながら
    一歩づつ前に進めればと思います。
    いつも長くなり恐れ入ります。
    季節の折お身体ご自愛されていつも分かりやすいお話での
    ストーリー楽しみに致しております。
    益々のご活躍心からお祈り申し上げます。

    駆け出しローズマリーこと
    宮城県在住 江口千里

    返信
    • エンジェル 恵津子 より:
      2025年2月17日 7:43 AM

      千里さん、この度も心のこもったコメントをありがとうございます。

      ご自身の経験をこうしてシェアしてくださったこと、本当に感謝いたします。

      慣れない土地での生活、幼いお子さんを抱えての不安、そして思いもよらない出来事…読んでいて胸が締め付けられるような思いでした。息子さんが大事に至らず、ご近所の方や娘さんの機転もあって守られたこと、ホッといたしました。しかし、その後の警察の聞き取りや、精神的な負担を思うと、どれほど大変だったか想像に余りあります。

      「弱り目に祟り目」という言葉、本当にそうだなと感じます。環境が変わることで、ふとしたことで精神的に追い込まれることもありますよね。過去の自分を励ましたい…その気持ち、私もとても共感します。そして、そのときのご自身は、そのときできる事を精一杯やってきたからこそ、今こうして振り返ることができるのだとも思います。

      医療の問題に関しても、新しい土地に慣れることの難しさと、安心して受診できる場所を見つけることの重要性を改めて感じました。

      医療は生活に直結するからこそ、「信頼できるかどうか」はとても大切ですよね。私自身も夫の健康を守るために、適切な医療を受けられるかどうかという不安、今でも現在進行形です。そのお気持ちはとてもよくわかります。

      また、大愚道場や慈縁の会に参加されたとのこと、本当に素晴らしいですね! 勇気を出して一歩踏み出されたことで、夫婦のコミュニケーションに変化が生まれたというお話、心に響きました。「聞くことも同じ作用、私も肝に銘じて練習を重ねたいと思います。ご夫婦の会話が変わったこと、本当に素敵です!

      『日常五心』や『慈悲喜捨』を大切にしながら、一歩ずつ進まれていること、とても励みになります。私もまだまだ学びの途中ですが、一緒に歩んでいけるお仲間がこうしていらっしゃること、とても嬉しいです。どうかご無理のないよう、ご自身のお身体も大切にされてくださいね。

      温かいお言葉、本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします!

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