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逆境のエンジェル(第21話) アメリカの貧困層とホームレス事情

2025 5/16
連載記事 逆境のエンジェル
2024年6月10日2025年5月16日

➤逆境のエンジェルとは

「逆境のエンジェル」とは、アメリカで生活する著者が、自らの人生をふり返り、いじめや身体障がい、音楽への情熱、音楽療法士としての歩み、異文化での生活、異文化間結婚、人種差別など、さまざまな体験・挑戦を通じて得た気づきと学び、成長をつづった物語です。

➤前回のあらすじ

 カリフォルニア州、特にベイエリアの近年に見られる経済格差と、その原因について語っています。(第20話『ベイエリアの光と影』はこちらからご覧ください)

目次

なぜホームレスになってしまうのか

 大愚道場参加のため、久しぶりに訪れたサンフランシスコは、想像以上に増えていたホームレスの存在に驚かされました。

 ホームレスの数が全国的にみて突出して多いサンフランシスコ。しかし、人はどういう理由でホームレスになってしまうのでしょうか。

 今回はアメリカの事情に照らし合わせながら、考えてみたいと思います。

 ひとことでホームレスといっても、アメリカの場合、地域によって事情が大きく異なります。ホームレスの問題を考えるには、もともと抱えている生活状況や背景を知る必要があります。

 たとえば、南部のアパラチア地域や中西部のラストベルト。これらの地域はかつては産業の中心地として栄えましたが、工場の閉鎖や産業の衰退により、多くの人々が仕事を失い、人口が減少。

 ミシガン州のデトロイトも、自動車産業で栄えた都市でしたが、現在では失業率と低所得者層の割合が高く、問題となっています。

 一方、カリフォルニア州やニューヨーク州などの沿岸部の都市は、経済的に豊かであるものの、生活費が非常に高いため、中産階級でも経済的にギリギリの状態の家庭が多く、生活しづらい環境になっています。

 特に、サンフランシスコやロサンゼルスなどの都市では、高額な家賃が低所得層を追いつめています。

 そして、こうしたさまざまに厳しい現状が、やがて多くの人を、ホームレス状態へと追いやってしまうのです。

人種の問題も大きな要因に

 経済的な問題以外にも、密接に関係しているのが人種です。

 アフリカ系およびヒスパニック系アメリカ人、そしてネイティブアメリカンは、白人に比べて低所得層の割合が高く、背景には、歴史的差別や構造的な不平等が存在します。

 アメリカ全土のホームレス人口の、約30%を占めるアフリカ系アメリカ人は、いまだ奴隷制の歴史から続く差別と貧困の連鎖のなかにいます。

 公民権運動以降も、教育や雇用の機会における格差は、ちぢまりにくい傾向が見られます。

 20%を占めるヒスパニック系住民も、不法移民である場合や低賃金の仕事に従事していることが多く、経済的困難に直面しています。

 2024年の統計では、ホームレスの43%が白人で、次いでアフリカ系アメリカ人、ラテン系アメリカ人、アジア系アメリカ人と続きます。

 数字的には白人が一番多いものの、それぞれが置かれた状況を照らしてみると、人種ごとに異なった厳しい現実が浮き彫りになってきます。

行き場を失った精神病患者たち

 ホームレスの増加には、経済的・人種的要因だけでなく、精神的な健康問題や薬物依存症も大きく影響しています。

 サンフランシスコやロサンゼルス、ニューヨークなど、大都会にはホームレスキャンプが至るところに存在します。

 そのひとつ、ロサンゼルスのスキッド・ロウ(Skid Row)は、数千人のホームレスが集まる地域として知られており、多くの人が貧困に加え、薬物依存にあえいでいます。

 精神病を患うホームレスの増加には、1950〜80年代にかけて起こった「脱施設化」の問題が背景にあります。

 脱施設化は、精神障害者を社会に復帰させる目的で進められたもの。これにより広大な敷地に建てられた精神病院が次々と閉鎖され、患者たちは地域社会での生活へと移行していきました。

 しかし、そうした患者たちに対し、適切な支援や住宅の提供が圧倒的に不足していた結果、多くの元入院患者は行き場を失い、ホームレスとして街角に立たざるを得なくなってしまったのです。

 このように、精神疾患や身体的障害、薬物中毒など健康の問題も、ホームレスになる大きな要因となっています。ちなみに、PTSDを患った退役軍人もここに含まれます。

 私たちの住む街にも、多くのホームレスが存在し、年々増えている印象を受けます。

 ホームレスもなんとか生活費を稼ごうと、スーパーの駐車場で車の窓拭きを提供してくることがあり、私もときどきお金を渡して窓を拭いてもらいます。

 こうして労働の報酬としてはお金を払うのですが、物乞いをしているホームレスにお金を渡すことは避けています。

 なぜなら、現金を薬物やアルコールの購入に使ってしまうホームレスが少なくないからです。慈善団体などによると、そのような人々への支援は、水や食事、衣類の提供を推奨しています。

再犯は貧困から抜け出すための手段!?

 家庭内暴力から逃れるために家を出たり、離婚や家族の解体によって住む場所を失う人も、ホームレスになるリスクが高いです。

 一方、低所得者のなかには、窃盗や薬物売買、暴力事件などの犯罪を犯して、州立病院や刑務所に収容される人も多くいますが、彼らにとってそれは、貧困やホームレス状態から抜け出すための方法でもあるようです。

 刑務所から出所した人も、再び社会に適応するのが難しく、ホームレスになるケースが多いのですが、出所者が再犯を重ねるのは、こうした事情があることを否定できません。

 実際、私の勤めている州立の病院でも、入院してくる患者の9割近くがホームレスを経験した過去があったり、逮捕時にホームレスだったりします。

 再犯して再入院してくる人も、決して少なくありません。

 こうしたホームレスの現状を知れば知るほど、援助体制の整備はさることながら、私たち一人ひとりの意識によっても、何らかの変化をもたらすことができるのではないか…と、いつもそう考えさせられてしまいます。

 次回は、再び話を新しい職場に戻し、筆者が新たに始めたあるチャレンジについて語っていきます。

第22話はこちら

記事の一覧はこちら

Angel’s column 【知ってほしい! アメリカの社会的背景⑪】

 ホームレスというと「社会とのつながりが断たれた人」という印象がありますが、実は生活保護を受けている人も多いです。たとえば精神疾患。これが麻薬によるものであっても、精神病と診断され、生活保護の対象になることがあります。路上で生活していても、郵便局のメールボックスを持っていたり、一緒に住んでいなくても、家族から経済的に多少の援助を受けている人もいます。
 
 ただ、薬物とホームレスの問題については、少々誤解があるようです。というのも、薬物中毒のホームレスのなかには、「あえてホームレスになっている」状況を作り出している人もいるからです。実際には、家族も住むところもあるのに、薬物欲しさに家族からお金を盗むなどし、その結果、家族から見放され、路上で廃人のようになっている…。そして、そのような人が、本当に住むところがなく路上にいる人と紛れてしまうことで「ホームレスは薬物中毒」という報道がなされてしまうのです(薬物使用と精神病については、いずれまた詳しくこの連載で取り上げていきたいと思います)。

 ちなみに、住む場所がないホームレスの人でも、生涯ホームレスという人はまれで、一年以上、路上で生活する人はそれほど多くありません。一時的にホームレスになっても、支援を受け、自力で仕事を見つけ、懸命に生活を立て直そうとしている人が、実は大半なのです。

(感想、メッセージは下のコメント欄から。みなさまからの書き込みが、作者エンジェル恵津子さんのエネルギーとなります。よろしくお願いします。by寺町新聞編集室)

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この記事を書いた人

エンジェル 恵津子のアバター エンジェル 恵津子

東京都出身。音大卒業後イギリスに渡り、現在はアメリカのカリフォルニア州立病院で音楽療法士として勤務。和太鼓を用いたセラピーは職員、患者共に好評。厳しい環境下で自分に何ができるのか模索しながら、慈悲深く知恵のある人を目指して邁進中。
歌、折り紙、スヌーピーとスイーツが大好き。

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