➤逆境のエンジェルとは
アメリカで暮らす筆者が、いじめ、身体障がい、音楽への情熱、異文化での生活、人種差別、仏教との出会いを通じて成長していく物語。個人的な体験を超え、社会の不平等や共生の課題にも鋭く切り込み、逆境の中で希望を見出す力を描きます。
➤前回のあらすじ
2月の黒人の歴史月間にちなみ、ふたりの黒人発明家を紹介。そして、その月間を祝う意味について述べています。
揺らぐ日本人としてのアイデンティティ
先日、大愚和尚がワールドツアー告知動画(※1)で、「海外に住む日本人が、自分に自信を持てない」と語られていました。
その言葉を聞きながら、私はかつての自分を思い出し、「日本人としての誇り」とは何かを改めて考えさせられました。
海外に住んでいると、文化の違いや言語の壁に直面し、ときには孤独を感じることがあります。日本では自己主張を控えることが美徳ですが、海外では「はっきり意見をいわない人」と誤解されがちです。
私自身も海外生活を始めた頃、西洋文化の積極性や自己主張の強さに圧倒され、「日本の文化って、もしかして時代遅れなのかもしれない…」と不安になり、その時期は長く続きました。
それは決して私だけの経験ではなく、多くの日本人が感じることではないでしょうか。
アニメやゲームなど、日本の文化が海外で注目されていることは知っていても、いざ自分がその文化を担っていると考えると、「うまく説明できない」「尊敬されるどころか、バカにされるかもしれない」という不安が頭をよぎる。
だからこそ、日本人であることを隠そうとしたり、必死に西洋文化に溶け込もうとしたりしてしまうのかもしれません。
しかし、実は海外に出ると、自分たちがいかに日本を知らないかということに直面します。
一般的にタブーとされている宗教や政治の話でさえ、ときと場合によっては意見を求められ、日本の現状を聞かれることがあります。
そんなとき、答えられなかったり、日本を否定的にいう、そんな自分に気付かされます。
※1 ページ最後のリンクからご覧ください

世界に広がる日本文化との再会
また、あるときふと気づいたのは、「日本文化は、実は世界中に深く根付いている」という事実でした。
食文化
寿司やラーメンはもちろん、抹茶や和菓子、居酒屋のようなスタイルまで、多くの国で広がっています。
ニューヨーク、パリ、ロンドンでも、日本食レストランは人気があります。私の住む小さな街でさえ、日本人が経営していない寿司レストランが数件あるほどです。現地の人々が「日本食はヘルシーで繊細で美味しい!」と喜ぶ姿を見ると、むしろ私たちのほうが驚かされるほどです。

ポップカルチャー
『ONE PIECE』『ドラゴンボール』『NARUTO-ナルト-』などの作品は、世界中の若者が夢中になるほどの影響力を持っています。
アニメイベントが大小さまざま催され、コスプレを楽しむ海外のファンを見ると、私たちが何気なく親しんできた漫画やアニメが、どれだけ多くの人々の心を動かしているのかを実感します。
同僚の娘さんの夢は、将来日本に住んで、アニメを勉強することだそうです。ときどきSNSで投稿してくれる彼女の作品を見ても、日本の漫画の特徴を活かしたとても魅力的な描写だと感じています。

精神文化
精神文化は、私たちの行儀作法や考え方に直結するものです。禅や茶道、書道、武道などの伝統文化も、「奥深い哲学」として海外で受け入れられています。
近くにある空手道場は、いつも子どもたちでにぎわっています。夫も台湾にいた子ども時代に柔道を習っていたそうで、この武道の精神について彼の理解するところを話してくれました。

世界から、どんどん縮小している日本人街。しかし、日本人以外の人が、その魅力に魅せられこれらのビジネスを展開している現実があります。
こうした世界の人々の姿を目の当たりにすると、「私たちが当たり前に思っていた文化こそ、誇るべきものなのではないか」と、改めて気づくのです。
(※関連してこちらの記事も参考にしてみてください。)
“古い”の誤解? ユーモアが生んだ言葉の壁
最近、円安ドル高の影響で日本に旅行に行く人を多く見かけます。私の職場の黒人女性の同僚も、家族や恋人を連れて日本を訪れました。
彼女は出発前、日本語を少しでも話せるようにと熱心に練習していました。そしてある日、こういってきたのです。
同僚:「ちょっと練習したの聞いてよ! ワタシノナマエワ、リオナ、デス。 …どう?」
私:「わあ、上手よ! すごいじゃない」
彼女は気をよくして、もう一文、自信満々に披露しました。
同僚:「じゃあもうひとつ! ワタシワ、フルイ、デス!」
私:「……??(爆笑) え、ちょっと待って。いまから説明するね!」
どうやら「I’m old(私は年をとっています)」といいたかったらしいのです。しかし、辞書で“old”を引いたら「古い」という単語が出てきたようなのです。
「人には『古い』とはいわないんだよ」と説明すると、彼女も大笑い。「でも、ウケ狙いで使えそうね!」と冗談をいい合いながら、日本へ送り出しました。

違和感こそ魅力? 海外から見た日本文化
彼女たちの帰国後、一番印象的だったのは「日本では本当にリラックスできた」という話でした。
日本では礼儀作法が重んじられ、気を遣う場面が多いイメージがありますが、彼女たちにとってアメリカの暮らしには、常に「危ない目に遭うかもしれない」という緊張感があるそうです。だからこそ、日本の「安心感」に感動したといいます。
「いい意味で違和感があるね」とは夫の言葉。
多少の“堅苦しさ”はあるのかもしれませんが、安心して道を歩け、黒人だというだけでいいがかりを付けられたり、犯罪者扱いされないことを、とても心地よく感じたようでした。
夫は幼い頃、台湾で日本人女性にお世話になったことがあり、「彼女の控えめで優しい振る舞いが、とても印象に残っている」とのこと。
また、大人になってから職場でポットラック(※2)をした際、日本人の保護者が持ち寄った寿司や色鮮やかな料理に感動したそうで、話そっちのけで、何度もお代わりに行ったそうです(笑)。
※2 参加者それそれが、あり合わせを持ち寄る気軽なパーティー
ルーツに誇りを持ちながら、他者を尊重する
そんな彼らと関わっていると、アメリカの社会問題を直視しながらも、自分たちのルーツを誇りに思い、他の文化にも敬意を払っていることを感じます。
だからこそ、日本文化にも興味を持ち、日本語を学び、心から楽しもうとしてくれるのです。
来年、日本に旅行に行く計画を立てている同僚も、いま日本語を勉強中だといって、ダウンロードしたアプリを見せてくれました。その姿を見ていると、「私たち日本人こそ、自分たちの文化にもっと誇りを持っていいのでは?」と考えさせられます。
逆風のなかにあっても、自分のルーツを大切にしながら、他者の文化も尊重する姿勢は、まさに仏教の「ありのままを受け入れる」精神にも通じるように思うのです。

日本人としての自信を取り戻すために
私の経験からいえるのは、たとえ意見をいうことが苦手でも、時間を守り、責任を持って仕事に取り組むことが、最終的には信頼につながるということです。
私はつい最近、緊急の用件で、勤務時間の変更を申請しました。通常、なかなか認められにくい要望でしたが、これが特例として認められたのです。それは、時間を守る日本人の真面目な気質が評価された瞬間でもありました。
海外に住む日本人同士で集まると、ちょっとした気遣いの文化が、自然と息づいていることにも気づかされます。
言葉でいわずとも、飲み物を継ぎ足してくれたり、揚げ物に付けるソースを側にスッと寄せてくれたり。私自身、そうした繊細な心配りを改めて学び、実践していきたいと感じています。
私たちはどこにいても、逆境に立たされることがあります。しかし、逆境のなかにこそ「自分のルーツ」を見つめ直し、誇りを持って歩むきっかけがあるのではないでしょうか。
私たちのなかに息づく日本文化は、想像以上に力強いものなのですから。
次回の投稿のテーマは、現在のアメリカはどんな社会の構築を目指しているのかについて、語っていきたいと思います。(更新は4月21日夜7時)
記事の一覧はこちら
(感想、メッセージは下のコメント欄から。みなさまからの書き込みが、作者エンジェル恵津子さんのエネルギーとなります。よろしくお願いします。by寺町新聞編集室)
コメント