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人は関わりの中で育つ?(第66話)

2026 6/18
連載記事 逆境のエンジェル
2026年6月22日

➤逆境のエンジェルとは

 アメリカで暮らす筆者が、いじめ、身体障がい、音楽への情熱、異文化での生活、人種差別、仏教との出合いを通じて成長していく物語。個人的な体験を超え、社会の不平等や共生の課題にも鋭く斬り込み、逆境のなかで希望を見出す力を描きます。

➤前回のあらすじ

  褒め方、自己肯定感、共感、そしてAI時代の人間関係。 心理学と禅の視点から、“揺れながら育つ心”について語っています。(第65話『揺れる時代に、心はどこへ向かう?』はこちらからご覧ください)。

目次

褒めるということの、その先に

  前回の投稿では、AI時代の自己肯定感における、寄り添いと人間関係について書いてみました。

 便利さが増し、傷つく機会を減らせる時代になりました。子育ての現場でも、教育の現場でも、「褒めること」「認めること」「寄り添うこと」の大切さが語られるようになっています。

 それ自体は、とても良い変化だと思います。

 かつては厳しさや根性論が重視され、「我慢して当たり前」「叱られて育つものだ」という考え方も少なくありませんでした。

 しかし、その反動なのか、近年は「傷つけないこと」が重視されるあまり、私たちは少し別のことを見落としているのではないかと感じることがあります。

 それは、本当に必要なのは傷つかないことなのか、それとも傷ついても立ち上がれる力なのか、ということです。

褒めることは悪いこと?

 私は褒めること自体に問題があるとは思いません。むしろ、人は認められることで安心し、自信を持ち、新しいことへ挑戦する勇気を得ることもあります。

 しかし、褒め方によっては、思わぬ落とし穴もあるようです。

 たとえば、テストでよい点を取った子どもに、

「すごいね」
「頭がいいね」

 と声をかけることがあります。

 一見すると前向きな言葉ですが、心理学者キャロル・ドゥエック(Carol Dweck)の研究では、能力そのものを評価され続けた子どもは、失敗によってその評価を失うことを恐れ、挑戦を避ける傾向があることが示されています。

 また、心理学者エディ・ブルメルマン(Eddie Brummelman)らの研究では、過剰な称賛は、とくに自己評価の低い子どもにおいて、難しい課題への挑戦を避ける傾向を強めることが報告されています。

 なぜなのでしょうか。

 それは、「頭のいい自分」「優秀な自分」でいなければならないという見えないプレッシャーが生まれるからです。

 評価は支えになります。しかし、それが過度になると、人は評価を失うことを恐れ始めるのです。

 そしていつしか、

「認められていなければならない」
「特別でなければならない」

 という思いに縛られてしまうこともあるのです。

努力を見てもらえた喜び

 私が音大受験のために歌を学んでいた頃、恩師はとても厳しい方でした。

 「練習が足りない!」
 「できないならやめてしまえ!」

 そんな言葉が飛んでくることも多々ありました。いまの時代なら問題視されるかもしれません。

 それでも私は、その先生の言葉の奥に、私への本気を感じていました。

 怖いという気持ちもありましたが、それ以上に悔しさの方が強かったのです。

 そして、できるようになったとき、その恩師は心から喜び、努力の積み重ねを認めてくれました。

 私はそのときのうれしさを、いまでも覚えています。

 褒められたことがうれしかったこともありますが、自分が積み重ねてきた時間や努力を見てもらえたことが、何よりもうれしかったのです。

 おそらく人は、結果を評価される以上に、自分の歩んできた過程を理解してもらえたときに、大きな力を得るのではないでしょうか。

寄り添うことの本当の意味

 最近は「寄り添うこと」が大切だといわれます。もちろん、相手の気持ちを受け止めることは大切だと思います。

 しかし、寄り添うことは、相手の辛さに同調し続けることではありません。また、傷つかないように守り続けることでもありません。

 本当に必要なのは、

「大丈夫、一緒に考えてみよう」

 と声をかけながら、その人が自分の力で立ち上がれるように支えることではないでしょうか。

 「どこまではできていた?」
 「次はどうしてみようか?」

 そんな問いかけは、考える力を与え、失敗を分析する力を育てます。そして何より、「やり直してもいい」という感覚を育てていきます。

 寄り添うことの目的は、相手を守り続けることではなく、相手が自分の足で歩けるように言葉がけをすることなのだと思います。

本当の強さとは何か

 私は、このことは大人同士の関係にも通じると思っています。

 SNSでは日々、多くの誹謗中傷や攻撃的な言葉が飛び交っています。もちろん、意見の違いや批判そのものが悪いわけではありません。

 しかし研究では、他者を攻撃する行動の背景に、不安定な自尊感情や、自分の価値を守ろうとする心理が関係していることが指摘されています。

 本当に自分に自信がある人は、異なる意見の存在によって、それほど脅かされないのです。

 ところが、自分自身への不安が強いと、自分の正しさを証明するために誰かを否定したくなることがあります。

 相手を見下したり、攻撃したりすることで、自分の価値を確認しようとしてしまうのです。

 実は、私自身にも思い当たることがあります。

 以前、大愚和尚に、

「慈悲深い自分と、意地悪な自分との、揺れ幅が大きくなるときがあり、そんな自分に疲弊することがあります」

 と話したことがありました。

 そのとき、和尚はこうおっしゃいました。

「コンプレックスがありますからね」

 その言葉を聞いた瞬間、私はハッとすると同時に、胸の奥にチクっと小さな痛みを感じました。

 そう、コンプレックスです。

 さまざまな人生経験を重ね、仏教にも出合ったなかで、自分自身への劣等感や執着は少しずつ受け入れられるようになってきたと思っていました。

 それでもなお、心が大きく揺れるときがあるのです。

 誰かに対して否定的な感情が湧いたり、自分の正しさに固執したくなったりするときがあるのです。

 その根っこにあるものは何だろうか。そう見つめていくと、多くの場合、それは相手の問題ではなく、自分自身のコンプレックスや不安だったりするのです。

 和尚の言葉は、それを気づかせてくれるものでした。それ以来、感情が大きく負の方向へ揺れたときには、

「これは何に反応しているのだろう」

「私のなかのどんな不安が顔を出しているのだろう」

 と、自分に問いかけるようになりました。

 相手を変えようとする前に、自分の心を見つめる。それは簡単なことではありませんが、とても大切なことだと感じています。

 失敗を認められる人。間違いを認められる人。自分と違う考えを受け入れられる人。

 そうした人こそ、本当の意味での強い人なのだと思うのです。

褒めることの、その先に

 褒めることも、寄り添うことも、とても大切なことです。

 けれど、その目的は相手を気持ちよくすることだけではなく、評価され続けなければ生きられない人を育てることでもありません。

 褒めることの先にあるもの、寄り添うことの先にあるもの。それは、失敗してもまた立ち上がれる力なのではないでしょうか。

 傷つかない心ではなく、傷ついても回復できる心なのではないでしょうか。

 人生には必ず逆境があります。思い通りにならないこともたくさんあります。努力しても報われないこともあります。

 それでも、「またやってみよう」と思える力があれば、人は前へ進むことができるのではないでしょうか。

 私たちが子どもたちに伝えたいことも、大人同士の関わりのなかで大切にしたいことも、きっとそこにヒントがあると思うのです。

 みなさんはどのように考えますか?

 次回の投稿は、最近、自分の無知によって少々恥ずかしかった出来事について語りたいと思います。7月20日(月)夜7時を予定しています。

記事の一覧はこちら

(感想、メッセージは下のコメント欄から。みなさまからの書き込みが、作者エンジェル恵津子さんのエネルギーとなります。よろしくお願いします。by寺町新聞編集室)

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エンジェル 恵津子のアバター エンジェル 恵津子

アメリカのカリフォルニア州立病院で音楽療法士として勤務。和太鼓を用いたセラピーは職員、患者共に好評。音楽以外にも折り紙を用いたセラピーも好評。厳しい環境の中でも、慈悲深く知恵ある人を目指しています。
歌、折り紙、スヌーピーと和スイーツが大好き。

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