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逆境のエンジェル(第14話) 結婚後のチャレンジ

2025 5/16
連載記事 逆境のエンジェル
2024年4月22日2025年5月16日

➤逆境のエンジェルとは

「逆境のエンジェル」とは、アメリカで生活する著者が、自らの人生をふり返り、いじめや身体障がい、音楽への情熱、音楽療法士としての歩み、異文化での生活、異文化間結婚、人種差別など、さまざまな体験・挑戦を通じて得た気づきと学び、成長をつづった物語です。

➤前回のあらすじ

 2年の交際期間を経て、「結婚」という新たな扉を開いた筆者。しかし、そこで待ち受けていたのは、義理の親との複雑な関係でした。さらにその後、結婚式に向かう道中でも、思いがけないハプニングに見舞われました。(第13話『異文化間結婚でのチャレンジ』はこちらからご覧ください)

目次

価値観の違いは超えられる?

 「夫婦というのはお互いが研磨石であり、結婚生活はお互いを磨いていく旅である」そんなことを、誰かがいっていたのを覚えています。

 その言葉どおり、結婚後、私たち夫婦は多くの困難に直面しました。

 夫婦間のすれ違いや口論は、しばしば価値観の違いによるものといわれますが、私たちも例外ではありません。

 共同生活のなかでは、子ども時代の体験や、トラウマが顔を出すこともあります。

 まさに第2話の冒頭でお話ししたようなことが起こるのです。

 夫においても、ときとして、私の言動が彼の母親を思い起こさせ、口論になることがありました。

 その都度、私は彼の母親でないことを思い出させ、投影反応(※)から呼び戻す努力をしなければなりませんでした。

 それでも、私たちは基本的な価値観の核が似ているため、最終的にはなんとか互いを尊重しあい、再び前を向くことができました。

 しかし、物の見方や感じ方の違いは、物の所有量、金銭管理から、祝日の祝い方や休日の過ごし方に至るまで、さまざまな形で影響し、しばしば衝突の原因となりました。

※ 自分のなかの受け入れがたい部分を、他人のものだと思い込む心の防衛反応

「エンジェル」の名前も標的に!

 結婚直後、夫は担当していたクラスが減らされ、仕事を失いました。

 その後、見つかった教員の仕事でも、非常に不公平な扱いを受け、辞めざるを得なくなりました。

 理由は、彼がかつて上司や教育委員会を、法的手段で訴えたことにあると考えます。彼は、6年間にわたり昼休憩を一度も与えられなかったことがありました。

 何度改善を要求しても、無視されることが続き、結局、訴訟に踏みきるしかなかったのです。

 裁判で、彼は勝訴しました。しかし、これにより名前がブラックリストに載ってしまったのでしょう。

 以来、それまで以上に、さまざまな場面で嫌がらせを受けるようになってしまいました。

 仕事が削減されたのは、裁判に対する報復的措置であることは明らかで、再就職しようにも、なかなかうまくいきません。

 弁護士にも相談しましたが、それを証明することは困難であり、多大な費用がかかると諭されてしまいました。

 その後も、なんとか職を得ても、嫌がらせやいじめに遭遇し、退職を余儀なくされることが続きました。

 仕事に就けないのは人種差別だけでなく、彼の学歴も原因でした。

 アメリカでは有色人種、特に黒人において、高学歴は必ずしもメリットではなく、彼は学歴の高さと体格の大きさから、威圧的な人間だと受け取られ、敬遠されることが多かったようです。

 夫が仕事に就けない状況が続き、私たち夫婦は、経済的にも精神的にも追い詰めらていきました。

 言い争いが毎日のように起こり、別れの文字が頭をよぎったことは一度や二度ではありません。家も売却せざるを得ない状況になってしまいました。

 私にとってもこの時期、職場いじめが頂点に達していました。

 結婚したことへの嫉妬や嫌がらせも増え、現に同僚の一人が「私でさえまだ結婚できていないのに、なぜ恵津子ができるわけ?」と、騒いでいたとの報告を受けたこともあります。

 のちにわかったことですが、「エンジェル」という結婚姓も標的になっていました。

 夫のファミリーネーム「エンジェル」は、アメリカではめずらしい名前ではありませんが、「天使」という意味もあるため、それが嫉妬や嫌がらせの原因になりました。

 エンジェルというと「白」を思い浮かべる人も多く、有色人種である夫も私も、「エンジェルの名にそぐわない」と陰口をたたかれてしまうわけで…。それはいまでもよくあることです。

 当時は、私の持病も悪化し、心身ともに苦しい状況が続いていました。

 しかし夫は、決してあきらめることなく、他の州の学校にも求職し、ひたすら前進するというスタンスを崩しませんでした。

 そしてついに、夫は北カリフォルニアで教職の仕事を見つけることができました。

 私たちは南カリフォルニアからの引っ越しを決意し、新たな生活を始めることとなりました。

南から北への大移動

 私は、南カリフォルニアでの諸々の手続きをすませ、2カ月遅れで、先に現地に到着している夫と、北カリフォルニアで合流することになりました。

 引っ越しの日、私は友人とともに、借りたトラックに家財道具など荷物を運び込みました。

 私の愛車であるミニクーパーの「クーちゃん」もカーゴに乗せて、さあ、南から北への大移動の旅に出発です!

 大きなトラックを運転するのは、生まれて初めての経験で、滑り出しは順調。

 渋滞などもなんのその、友人と楽しくおしゃべりしながら、ピクニック気分で運転していました。

 しかし道中、急な坂道を降りる際、焦げ臭い匂いがし始めました。さらに、パーキングエリアにたどり着いたところで、トラックのスピードが出なくなってしまったのです。

 ブレーキの過度の使用による摩擦で、焼けつきが起きたことが原因のよう。

 私たちはロードサイドサービスを呼び、応急処置を施してもらい、なんとか夜遅くにモーテルに到着しました。

クーちゃんの大怪我

 翌日は早朝に出発、昼ごろには夫の待つアパートに到着する予定でした。

 しかし、またしてもトラブルが。目的地まであと40キロのところで、再びトラックのスピードが出なくなってしまったのです。

 私たちは高速道路を降りて、救助を待つことにしました。

 その間、約2時間。ようやく救助が到着し、トラックが牽引されることに。

 そしてクーちゃんを、カーゴから降ろして別のトラックに移すよう、係員から指示されました。

 いわれるがままに、アクセルを踏んでカーゴから移動しようとすると、今度はクーちゃんにトラブルが発生。

 係員の指示通りにもう一度強くアクセルを踏むと、ガタッバキッ!と、なんとも不吉な音が… 。

 実はクーちゃん、チェーンでつながれており、無理に車を発進させようとした勢いで、サスペンションが曲がってしまったのです!

 夫に電話で状況を説明すると、車のトラブルに人一倍敏感な彼は、心配のあまり怒りで声を荒げました。

 やっとの思いで骨折したクーちゃんと荷物をアパートに運び込んだのは、もう外が薄暗くなってからでした。

 夕食を作って待ってくれていた夫からは、いきなりの小言とお説教。

 「なによ、ねぎらいの言葉もないわけ? そんなにいうなら自分で運転してくればよかったでしょ!」と、私も思わず反発。

 引越しの連絡が行き違いになるなど、私のコミュニケーション不足により夫が手伝いに来られなかったのに、その責任を棚に上げ、さらには運転の疲労も重なって…。

 終始ふてくされた様子の私に、「どっちが夫でどっちが妻なんだか」と、一緒に来た友人は、笑ってその場を丸く収めようとしてくれたのでした…(苦笑)。

 ちなみにクーちゃんは、牽引に来てくれた会社が損傷の責任をとって、きちんと治療して(直して)くれました。

 その後、新しい職場までの通勤で毎日大活躍したことも、ここで述べさせていただきます。

 次回は、新しい職場で患者が発した衝撃の言葉から学ぶ、組織的・社会的人種差別について物語を進めていきます。

第15話はこちら

記事の一覧はこちら

Angel’s column 【知ってほしい! アメリカの社会的背景 その⑤】

 アメリカでは、黒人男性教師の割合がわずか1.6%と、極端に少ない現状があります。そのおもな理由は、経済的なものや、教育格差などによる、高等教育へのアクセスの困難が挙げられます。

 さらに、学内にはびこる偏見や人種差別も、黒人男性が教師をめざす際の大きな障害となっています。歴史的な背景も影響しており、以前行われていた人種隔離政策や、のちの物語で触れる、学校から刑務所へのパイプラインの問題は、いまも教育界に暗い影を落としています。

 これら問題の解決には、歴史教育の充実、教師への適切なトレーニング、学ぶチャンスの増加、人種に限らずに平等に高等教育が受けられる環境作りなど、「教師になりたい」という目標をあらゆる人種の人が抱けるような、支援策が必要だと考えます。

(感想、メッセージは下のコメント欄から。みなさまからの書き込みが、作者エンジェル恵津子さんのエネルギーとなります。よろしくお願いします。by寺町新聞編集室)

連載記事 逆境のエンジェル

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この記事を書いた人

エンジェル 恵津子のアバター エンジェル 恵津子

アメリカのカリフォルニア州立病院で音楽療法士として勤務。和太鼓を用いたセラピーは職員、患者共に好評。音楽以外にも折り紙を用いたセラピーも好評。厳しい環境の中でも、慈悲深く知恵ある人を目指しています。
歌、折り紙、スヌーピーと和スイーツが大好き。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • SY より:
    2024年4月30日 4:57 AM

    えつこさんの物語を拝読して、自分の経験を振り返れば、結婚生活の楽しい幸せな時間よりも、衝突や危機を乗り越える時間を通じてのほうが、より絆を深められるような気がします。過去形ではなく現在形です、フフフ。

    返信
    • エンジェル 恵津子 より:
      2024年4月30日 1:59 PM

      SYさん

      コメントありがとうございます。

      おっしゃるように、一つ一つ乗り越えて、絆が深くなったように思います?!

      そして、次は何が来るのかとドキドキしながら、まだまだ現在進行形です…(笑)

      返信

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