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【大愚和尚の物語~一隅を照らす~】第3話~悲喜こもごもの青春と波乱~

2026 5/18
連載記事 大愚和尚の物語
2026年5月30日

この記事は、大愚和尚の幼少期から佛心宗誕生にいたる半生を、物語風にお届けするシリーズです。大愚和尚の歩みは、私たちにとっても大切な学びにあふれています。映画にも劣らないエピソードの数々を、ぜひ最後までお楽しみください。

≫第2話はコチラ

目次

あふれるエネルギーと思春期

元勝少年は幼いころから人一倍エネルギッシュで、ヤンチャな行動が目立つ子どもでした。ある日、自転車に乗って近所の道路を、「やっほう、ゴーゴー!」と声を上げながら爆走しました。

そのスピードのままお寺に戻ると、勢いあまって池に突っ込んでしまいました。「が・・がぼがぼ!ごぼぼぼ」。危うく溺れかけましたが、必死に手足を動かして何とか這い上がり、事なきを得ました。

また、ある真冬の日。境内の井戸にかぶせてある、木のフタの上で、飛びはねて遊んでいました。ところが、そのフタは古く、腐りかけていたため突然崩れました。

元勝少年はそのまま、井戸の底へ落下してしまいます。

「うああ、冷たい!」井戸の底は凍てつく寒さで、しかも自力で這い上がれる高さではありませんでした。また境内は広く、その井戸は人目につきにくい場所にありました。

「おーい、おーい。誰かー!」このままでは凍死してしまうため、必死に呼びかけ続けると、お寺の庭師がたまたま通りかかりました。

「井戸の方から声……? うわ、中に子どもがいる。お、おい、大丈夫か!」

おどろき駆けつけた庭師は人を呼び、元勝少年は運よく助け出され、何とか事なきを得たのでした。

このように、元勝少年は危なっかしいことが多く、住職は「元勝。お前、もう少しは落ち着かぬか」と、しばしばお説教していたのでした。

そのような元勝少年も、10歳になると僧籍を取得し『仏道(ぶつどう)』という戒名を授かります。

以前からの習慣を続け、毎朝欠かさず早起きをしてお経を読み、規則正しい生活を送っていました。学校への登校は、本堂の掃除を済ませてからでなければ、許されませんでした。

放課後に友だちが「よっしゃ~、遊びに行こうぜ」「もうすぐテレビで、面白い番組あるから帰るわ」と楽しそうにしている時も、お寺のお役目がある日は、遊びを後回しにして、まっすぐ帰らなければなりません。

そのため友だちの家のような、自由に見える暮らしが、うらやましく思えることもありました。

女の子にモテたい!

元勝少年は小学生の頃、吹奏楽クラブでトランペットを吹いていました。卒業して中学校に入ると、今度はバスケットボール部に入ります。

多くの生徒から、爽やかでカッコいいスポーツだと思われがちで、試合で活躍した男子には「きゃー、〇〇くーん!」と、女の子から黄色い声援が飛ぶこともありました。

思春期まっただ中の元勝少年は、次第に女子の目が気になるようになります。

何となくファッションも気になり始め、自分だけ坊主頭にしなければならないことが、たまらなく嫌でした。

ある時、思い切って頭を剃るのを止めてみました。髪を伸ばし、カッコいい髪型になれば「きっと、女子にモテるぞ」と考えたのです。

一方で住職からいつ「なんだ、その頭は!」という喝が飛んでくるかと、内心はドキドキの日々でした。

しかし意外にも、どんどん髪を伸ばしても何も言われず、元勝少年は「理由はよく分からないけど、やったぞ」と喜びます。

そうした中、ある朝にとつぜんの異変が起こります。元勝少年が布団から起き、洗面所で顔を洗おうと、鏡を見た瞬間でした。

「は?え・・なにコレ!」。

頭の、左側の一部だけ髪がありません。片側だけが刈り上げられた、奇妙な髪型になっていました。

じつは夜中、寝ている間に住職が忍び寄り「僧侶の身で、そんな勝手が許されると思うな」と言わんばかりに、夜のうちに刈られていたのです。

「ああ、うわああ、ひどいー!」元勝少年は、思わず涙目になりそうでした。とにかく変な髪型のままでは、恥ずかしくて人前に出られません。泣く泣く残りの髪を剃り、坊主頭に戻しました。

そして「今は仕方がない。でも大人になったら、お坊さんになんか絶対なるもんか!」と、心の中で強く思いました。

喜びの再会と残された謎

ある日、元勝少年が学校から帰ると、山門の横に見覚えのある人物の、後ろ姿があります。その人は元勝少年に気づき、ふり返ると言いました。

「おお、“元ちゃん”!大きくなったなあ。オレのこと、覚えてる?」

「あ、ああ!ドウコウさん」

「今日から、また福厳寺で暮らせることになってね。よろしく」。

元勝少年は、かつて姿を消してしまったドウコウさんが、どこに行ったのか、気にかけ続けていました。

過去のいきさつから「自分のせいで、出て行った」という思いもあり、戻って来てくれたことを、なおさら嬉しく感じたのでした。

元勝少年は幼少の思い出話や、これまで過ごして来た日々を、ドウコウさんに語りました。

「・・それで、お師匠さまに髪切られちゃってさ。ひどくない?」

「ははは。いや、笑っちゃいけないけど、相変わらず面白いね。今度、落語のネタにしていい?」

「いやいや、恥ずかしすぎるって、やめてよ。そんなことより、ドウコウさんはどこに行ってたの?」

「ええと、まあ・・色々あってね。あっちこっち」。お寺を出て行ったあと、どうしていたのか。元勝少年が聞こうとすると、なぜかドウコウさんは話を濁し、話題を変えようとします。謎ではありましたが、今は何より再会が嬉しく、それ以上、深く追いかけようとはしませんでした。

とつぜんの不穏な兆候

ドウコウさんと、再びの共同生活が始まった、ある日のことでした。

元勝少年が法事の用意で、お寺の中を歩き回っていると、廊下の隅にいるドウコウさんを見かけました。

「ドウコウさん、おはよう」

「うぷっ。あ……ああ“元ちゃん”。お疲れさま~」。

そう言ってドウコウさんは、右手に持っていた何かをあわてて隠しました。しかし元勝少年の目は、それを見逃しませんでした。

「あれはカップに入った・・お酒?」。

元勝少年は生まれてから、一滴も酒を口にしたことはありませんでしたが、それが何であるかはわかりました。

宴会でもない日中に、それも修行道場である禅寺の中で、酒を飲むなど——。

福厳寺の誰かが、それもただでさえ厳格な住職が知れば、どうなるでしょうか。「出て行け!今すぐ出て行け!!」と、烈火のごとく怒る住職の姿が、目に浮かびます。

「ドウコウさん、なんで・・?」ドウコウさんが追い出されないよう、誰かへ報告することはしませんでした。

しばらく心の中に秘めましたが、得体の知れない不吉な予感が、心から離れませんでした。

青天の霹靂

それから何日かが過ぎ、元勝少年は用具の置き場所で聞きたいことがあり、ドウコウさんの居室を訪ねました。

「ドウコウさん。ちょっと、いいかな。・・えっ!」。

部屋には数本の一升瓶が転がっており、以前のカップ酒どころではありません。そして、誰の目にも、ドウコウさんはひどく酔っているように見えました。こうなると元勝少年も、見て見ぬふりはできません。

「あのさ、ドウコウさん。お寺の中で、これは……さすがに、まずいんじゃないかな」と言いかけた、次の瞬間。

「ごちゃごちゃ、うるせえんだよ!」

ドウコウさんの怒号に、元勝少年は凍りつきました。

ドウコウさんの大きな声は、これまでにも寄席で聞いたことがありました。落語では『おめえ、何してやがるんでい』のような、江戸っ子を思わせる荒っぽいセリフもあります。

ですが、目の前のドウコウさんの声は演技とは違う、本物の怒気が込められていました。

「どうせオレのこと、聞いてんだろ!足の火傷、本当は恨んでるんだろう!!」元勝少年には、何を言われているのか、さっぱりわかりませんでした。

ショックのあまり、目の前の光景がぐらっと揺れ、次の言葉が出て来ません。

「あ、いや・・その」。気がつくと元勝少年はパニックになり、逃げるように廊下を駆けていました。

知的で温かなドウコウさんとの、あまりのギャップに、起きているはずなのに、悪夢を見ているような気がしました。

しかし、それは紛れもなく現実の出来事だったのです。

≫第4話に続く

連載記事 大愚和尚の物語
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この記事を書いた人

原田幸文(こうぶん)のアバター 原田幸文(こうぶん)

寺町新聞の執筆・取材を担当。Yahoo!ニュース歴史・文化ライターとしての顔も合わせ持つ。小学生の秘密基地から南米のアマゾン川まで、どこへでも探訪。そこにある興味や発見、人の想い。それらを分かりやすい表現で、書き綴るのがモットー。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き。

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