大愚和尚

「気づいていること」の大切さ

 1ヶ月ほど前、長時間パソコン作業をしたあとに、眼の充血が気になったため、目医者を受診しました。点眼薬をもらって、3日ほどで無事、目の充血は治まりました。しかしその後、眼科の先生に勧められて、2つの検査を受けることにしました。

 一つは血液検査です。目の充血が、何かのアレルギー反応によるものかもしれない、ということで検査したのですが、結果、杉花粉に対して、アレルギー反応が出ることが判明しました。

 幼少期からお寺にいて、杉、ヒノキに囲まれた生活をしてきましたが、これまで、咳、クシャミ、鼻水などのアレルギー反応が出たことはありませんでした。なので、検査の結果は意外でした。

 けれども、言われてみれば確かに、充血が酷くなる数日前から、山の間伐や、間伐で出た、杉枝の粉砕などを行っていたため、弱点である眼に反応が現れたのでしょう。

 もう一つは、緑内障の検査でした。検査の結果は、正常ではないが、異常でもない。私の場合、強度の近眼であることもあって、本来なら丸い眼球が、ラグビーボールのように変形している。

 さらに、空手で負った眼の打撲などで、網膜が伸びて薄くなっている箇所があり、今後、その辺りが破れる可能性があるというのです。定期的に検査をしたほうがよい、との診断でした。

 自分の体も確実に老化している。老病死の流れには逆らえない。そのように頭では理解しているつもりでも、こうして現実を突きつけられると、少しショックです。

 けれども、痛みや違和感がハッキリと表面化したことによって、自分を振り返ることができる。「あまり無茶をせず、体を労ろう」という気になります。

 つくづく自分では気づかない弱点を指摘してもらえることは、「ありがたい」と思いました。

誰にでも長所と短所があります。
誰にでも強点と弱点があります。

 心、技、体のそれぞれに、長所・強点があり、心、技、体のそれぞれに、短所・弱点があります。善き人生をおくりたいと願うならば、自分の長短・強弱の両方を知って、それらを活かしたり、管理することが大切です。

 人生の前半に課題となるのは、長所、強点です。自分の「長所、強みを知って、いかにそれらを伸ばすことができるか」が、人生の質を大きく左右します。

 人生の後半に課題となるのは、短所、弱点です。自分の「短所、弱みを知って、いかにそれらを補い、管理することができるか」が、余生の質を大きく左右します。

 特に短所・弱点は重要です。それが自分には見えづらいからです。他人の短所・弱点は、放っておいても目につくのに、自分のそれには、なかなか気づきません。さらに短所・弱点は、認めがたい。誰かに短弱を指摘されても、「ああ、そうですね」とは認めがたいのです。

 世の中には、長所を伸ばして、短所や弱点には目を向けるな、という指導者もいます。それも確かに正解です。けれども、若年者や初心者には正解であっても、年長者やその道のベテランともなれば、短所・弱点の管理不足が命取りになります。

完全無欠の人間はいません。
欠点がひとつもない人など、いないのです。

だからこそ、お釈迦さまは、「気づいていること」の大切さを強調されました。

 仏教では、気づきを重要視します。
自分の外側だけでなく、内側に意識を向け、観察し、気づく。

自分の心。
自分の言葉。
自分の行い。
自分の体。
自分の仕事。
自分の結果。

無意識に、惰性で過ごすのではなく、自分自身に気づいていること。自我から離れ、自分を俯瞰して見つめること。

 私たちの体は「六根(ろっこん)」と呼ばれる感覚器官を備えています。眼、耳、鼻、舌、身、意の六つの感覚器官です。体が痛いとき、心が苦しいときこそ、自分に気づくことができるのです。

 今回、2つの検査を終えた後に、私の眼球映像を見ながら、先生が現状と今後の予防についてもご指導くださいました。画像を見ていて気づいたことがあります。

 盲点です。

 人間の眼には、見ようとする点より耳側に、視野の欠けている点があります。眼球の網膜内側に視神経が入る部分で、そこは視野が一定部分欠損しています。

 私の眼球の画像にも、楕円形の盲点が黒い影としてハッキリと写っていました。

 私たちは普段、色々なものを見て、見たものをすべて知った気になっていますが、そもそも、見ているようで見えていない部分があるということです。

「自分の心に、自分の技術に、自分の知識に、自分の行いに、盲点がある」。

「自分の心に、自分の技術に、自分の知識に、自分の行いに、弱点がある」。

盲点は無くすことはできません。
弱点も無くすことはできません。

 ただ、そのことに気づいているか、いないかで、人に対する謙虚さ、素直さが変わります。

 ものごとに対する、慎重さ、丁寧さが変わります。何より、自分自身に対する、気づきと、観察力が変わります。

 おかげさまで私は、ある程度丈夫な体に産み育ててもらいました。けれども久々に病院を受診し、短所と弱点に気づかせていただきました。

 歳を重ねて傲慢になるのではなく、謙虚に、素直に精進していきたいと、あらためて思った次第です。

 ワクチン接種が進みつつあるとはいえ、コロナウィルスの影響はまだしばらく続くことでしょう。けれども、今しかできないこと、今だからできることを、丁寧に、でも着実に進めていく所存です。

 皆様もどうぞ、ご自愛ください。

 願わくは、慈悲、知恵、仏性の三種を育み、心身堅固にして、大愚に一遇を照らさんことを。合掌

令和3年7月吉日
佛心宗 福厳寺住職 大愚 元勝

(佛心宗福厳寺会報『慈光』2021年7月号より抜粋)

ABOUT ME
知哲(ちてつ)
寺町新聞編集長。ナーランダ出版社長。モチモチの大きな手からは想像できない、繊細な表現を得意とする。佛心宗福厳寺の僧侶であり、映像クリエイター。さらに、グラフィックデザイナーとしても佛心宗の各種取り組みに関わる。YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」では企画運営を担当。好物は里芋の煮っころがし。
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