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イギリスで就労許可が下りず帰国――失意の先に開いたアメリカへの道 逆境のエンジェル(第8話)

2026 8/02
連載記事 逆境のエンジェル
2024年3月11日2026年8月2日

➤逆境のエンジェルとは

 アメリカで暮らす筆者が、異文化のなかで感じる違和感、人とのすれ違い、老いや心の揺れ、ときには自分自身の失敗を通して、「人はどうすれば、思い通りにならない人生をよりよく生きられるのか」を考えます。仏教の教えも交えながら、日常のなかにそのヒントを探す連載です。

➤前回のあらすじ

 音楽療法士になってからは、ホスピスでのボランティアや援助教員などのパートの仕事をしながら、イギリスでの精神的、経済的自立に向けて模索。パートの仕事から正社員として仕事のオファーがされ、自立に向けて確実に階段を上り始めたと思ったのでしたが…。(第7話『ホスピスの音楽療法で知った、人生の最期に音楽ができること』はこちらからご覧ください)

目次

EU加盟国増加のしわ寄せ

 イギリスがEUに加盟していたのは、1973年から2020年の1月までです。

 私がイギリスにいた時期には、EU加盟国が15カ国から27カ国にまで増えました。2004年には10カ国、2007年には2カ国が加わりました。

 正社員としての仕事のオファーをいただいたのは2007年のことでした。この時期イギリスでは、経済的に貧しいといわれたポーランドやチェコなど、多くの東ヨーロッパ諸国がEUに加盟したことで、労働移民増加への懸念と危機感が高まっていました。

 このEUの移民問題が、後にイギリスがEU離脱した重要な一因になりました。

 イギリス政府は、非EU 外国人労働者の受け入れを厳しくする方法で、移民労働者のバランスをとり、国民の不安や怒りを緩和しようとしていました。

 その動きが強まりをみせ、私もこの影響を直接受けてしまったのです。

EU拡大と外国人労働者を取り巻く変化

 私がイギリスで正社員としての仕事を提示されたのは、2007年のことでした。

 当時のEUでは加盟国が拡大し、人や労働者の移動が活発になっていました。2004年には中東欧を中心とする10か国、2007年にはさらに2か国がEUへ加盟しました。

 イギリス国内では、EU加盟国からの労働者の増加をめぐり、移民や雇用への関心が高まっていました。

 一方、日本人である私はEU圏外の出身者だったため、イギリスで働き続けるには、雇用主を通して就労許可を得る必要がありました。

 当時の制度では、雇用主側が、その仕事に必要な技能や給与の妥当性に加え、イギリスやEU圏内で適任者を採用できなかったことを示す必要がありました。

 音楽療法士として働く場合には、こうした条件を満たすことが難しい状況でした。

 しかし、日本人児童の学習を支援する仕事であれば、日本語力と日本の教員資格を持つ私には可能性がありました。

 会社も弁護士の指示を受けながら、就労許可のための複雑な書類を準備してくれました。

 「これで、イギリスに残り、正社員として自立できる」

 私は大きな期待を抱いていました。

突然の帰国

 しかし、就労許可の申請は認められませんでした。

 それまで多くの申請を扱ってきた弁護士にとっても、予想外の結果だったようです。

 現地の友人たちは、署名を集めたり、地域の関係者へ働きかけたりして、結果を変えようとしてくれました。

 弁護士も再度手続きを試みてくれましたが、最終的には、仕事を継続するための許可を得ることができませんでした。

 そして私は、1か月以内にイギリスを離れるよう求められました。

 その知らせを受けたとき、奈落の底に突き落とされたように感じました。

 家族同様に付き合ってきた人たちとの別れはつらく、泣きながら荷物をまとめ、日本へ帰国しました。

 ようやく精神的にも経済的にも自立できると思っていた矢先に、すべてが振り出しへ戻ったように感じました。

失意の帰国からアメリカへ

 帰国後は、イギリスで築いてきた生活を失った喪失感から、現実を受け入れることができませんでした。

 日本社会になじめるのか、仕事を見つけられるのかという不安もあり、気持ちが深く落ち込みました。

 支えてくれた両親にも、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

 しかし、いつまでも泣いているだけでは何も変わりません。

 両親のもとで暮らしながら仕事を探し、イギリスでの経験や音楽療法の仕事について、インターネット上でも発信しました。

 すると、アメリカで働く日本人の音楽療法士から、

 「カリフォルニア州の精神医療施設で、音楽療法士を募集している」

 という情報をいただきました。

 最初は半信半疑でしたが、調べてみると、本当に求人が出ていました。

 「今の私に失うものはない」

 そう思い、思い切って履歴書を送りました。

 電話面接を受けた結果、驚くことに採用が決まり、アメリカへ渡ることになったのです。

 旅行で訪れたことはあっても、アメリカに住むことなど、それまで考えたこともありませんでした。

 イギリスから帰国して8か月後、私は新しい人生へ踏み出すことになりました。

 イギリスを去らなければならなかったときには、人生のすべてを失ったように思いました。

 しかし、その出来事がなければ、アメリカでの仕事に出会うこともなかったでしょう。

 「捨てる神あれば、拾う神あり」

 人生は、何がきっかけで次の道へつながるのか分からないものです。

 苦しんでいる人の役に立ちたいという思いと、自分自身も社会に認められたいという思いを胸に、私はもう一度、前を向いて歩き始めました。

 次回からは、アメリカでの生活と、仕事について。そしてある患者との出会いと、物語も新しい展開へと入っていきます。

第9話はこちら

記事の一覧はこちら

※寺町新聞では、このほかにも数多くの連載記事を掲載しています。各連載記事はこちらからご覧いただけます。

(感想、メッセージは下のコメント欄から。皆様からの書き込みが、作者エンジェル恵津子さんのエネルギーとなります。よろしくお願いします。by寺町新聞編集室)

連載記事 逆境のエンジェル

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  • 日常で感じた小さな変化〈寺町の風〉
  • 私が通ってきたご縁の道<寺町の風>

この記事を書いた人

エンジェル 恵津子のアバター エンジェル 恵津子

アメリカで音楽療法の仕事に携わりながら、異文化、人との出会い、心の問題、社会などをテーマに執筆。日々の経験や感じたことを、心理学や仏教の教えと重ねながら、「逆境のエンジェル」「カルチャーブリッジ」などで綴っている。歌、折り紙、スヌーピー、和スイーツが好き。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • Kasumi より:
    2024年3月13日 12:20 PM

    日本からイギリスへ、イギリスから日本を経由してアメリカへ。波乱万丈、紆余曲折といった表現がぴったりくる、恵津子さんの冒険物語の続きを早速拝読しました。

    7年も住み暮らされた英国からの最後通牒は、何とも非情な仕打ちとしか言いようがないですね。でもそこは転んでもただでは起きない恵津子さんのこと。人生の試練をチャンスに変えるSNSの発信で「拾う神」を呼び寄せ、次の道を切り開かれたのはあっぱれ、お見事。

    むしろ、私としてはイギリス政府に感謝しないといけませんね。退去命令がなかったなら、お会いする機会に恵まれたとは思えませんから。諸行無常の波乗りサーフィン、えっちゃんがんばれ!

    返信
    • エンジェル 恵津子 より:
      2024年3月15日 2:13 PM

      Kasumiさん

      コメントありがとうございます。
      今思い返しても、あの時は若さと勢いで走り抜けましたが、やはりかなりショッキングな出来事でした。その証拠に、まだイギリスの再訪に足踏みしています(苦笑)

      しかし、大愚和尚もよくおっしゃるように、「ありえねー」ありがたいご縁の積み重ねで、自分の人生が繋がっているのだと痛烈に感じました。

      そして、諸行無常、本当に、変わらないものは何もないですし、いつ変化が起きるかはわからないものですね。そして、その変化があって、kasumiさんともお知り合いになれて、こうして文章も書かせていただいてるのですものね。

      いつも暖かいメッセージと応援ありがとうございます!

      返信

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