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サルのポテンシャル|アマゾンの侍(第3話)

2025 5/21
連載記事 アマゾンの侍
2024年10月11日2025年5月21日

➤ この記事について

2017年に筆者の原田が、原初の世界のようなアマゾン川の大自然を旅して、世界の見え方を変えられた体験をお伝えするシリーズです。「こんな価値観もあるのか」などと感じながら、読んでいただけましたら幸いです。

≫第2話はコチラ

目次

自然のめぐみかモンスターか

アマゾン川に行って2日目、僕はカヌーの上で長い釣竿を振り、水面をパシン、パシンと叩いていました。通常は魚釣りでこのような事をすれば、獲物が驚いて逃げてしまいます。

しかし、このとき狙っていた魚は“ピラニア”なので、ふつうの魚とはやり方が違いました。釣竿の先に肉片をつけ適度に水面を叩くと、ピラニアは小動物が溺れていると察知し、喰いついてくるのです。

ガイドにやり方を教えられ試していたのですが、ふと途中であることに気づきます。「あれ、釣れたあとは、どうすればいいんだろう」。釣れれば当然、針を口から外さなければいけません。しかしピラニアの場合、下手をすれば指をガブッとやられる光景が浮かびます。

とたんに釣れたら嬉しく、釣れなければ残念という常識が逆転してしまいました。そうしているとバシャバシャッと先端に反応があり、「どうしよう、釣れてしまった!」と思いましたが、もう引き上げるしかありません。

先端でピラニアはビチビチッと暴れていましたが、すかさずガイドのガブリエルさんが、「お、やったねえ」と言いながら横に。パパッと掴んでバケツに入れてくれたので、助かりました。

ところで“ガブリエル”といえば、有名な天使の名前でもあります。イメージとしては女性のような繊細さや、うつくしい顔立ちを思い浮かべる人も、少なくないかも知れません。

しかしガイドのガブリエルさんは屈強で、頼れる“ナイスガイ”といった雰囲気の男性でした。とくにキリスト教圏ではヨーロッパから南米まで、“ガブリエル”は男女問わず大人気の名前です。ブラジルも過去にポルトガルが入植したため、国民の半数以上とも言われるほど、クリスチャンの多い国のひとつです。

さて、釣ったピラニアは焼いて夕食にいただいたのですが、ギュッと白身が詰まっています。味そのものはあっさりとして、日本の魚でいうとタイに似ている気がしました。

しかしアマゾンでの生活は基本的に1日中動くので、とにかくお腹が空きます。胡椒をかけて食べたピラニアは、信じられないほど美味しく感じられました。

またピラニアといえば、これまでは恐ろしいモンスターのようなイメージでした。しかしガブリエルさんは言います。「ここにはスーパーもコンビニもない。アマゾンに暮らす人々にとっては、大切な食糧のひとつ。だから皆“自然の恵み”だと、ピラニアに感謝して食べるんだよ」。

その言葉は現地だからこそ肌身に染み、またひとつの価値観が変えられました。加えて基本的にピラニアは、臆病な性格だという事実も教えてもらいました。たとえば群れが泳いでいる場所に、人間がザバザバと入って行ったとします。

しかし、向かってくるどころかピラニアたちの方が、驚いて逃げるくらいなのだそうです。ただし、もし人間が体のどこかにケガを負っている場合は、要注意だと言います。

「彼らは血の匂いでスイッチが入るからね。もし血を流している状態だと、獲物だとみなして襲いかかってくるかもね」とのこと。「やっぱり・・けっこう恐ろしいかも知れない」と思い直しました。

アマゾンの恐ろしい生き物たち

アマゾンにはカラフルなインコや、薄ピンク色のイルカなど愛らしい動物もいますが、反対に人間にとって命の危険をもたらす生き物も、少なくありません。中でも最も恐れられているのが、“ジャララカ”という猛毒のヘビで、さながらアマゾン版のハブといった存在です。

同じくジャングルに住む大蛇のアナコンダに比べれば、普通サイズのヘビなのでですが、それが逆に見つけづらさに繋がってしまいます。気づけば眼前の枝に絡まっていたり、草むらで足を噛まれたりと、南米で最も多くの人命を奪っているヘビと言われています。

自然に慣れている現地民さえ容赦なく噛まれ、死に至ることがあるといい、集落や家の近くに入ってきたときには棒で叩いて殺したり、素手で生け捕る猛者もいるそうです。

またアマゾンの王者としては猛獣の“ジャガー”がおり、人間も捕食対象になります。その素早さは人間をはるかに上回り、木登りや泳ぎも出来るので、もしターゲットになれば逃げ切る術はありません。

もしジャングルの中でその咆哮を聞けば、恐怖で全身が凍りつくでしょう。銃などで武装していない限り勝ち目はなく、脅威であるとともに畏怖の対象でもあります。先住民によっては精霊や神の使いとして、ジャガーを崇拝している部族も存在します。

また水中においては“電気ウナギ”も脅威で、その電圧は800ボルトにも達するといいます。これを水中で受けてしまうと、より感電率が高く生死に直結します。馬が電撃を受けて気絶し、そのまま溺れてしまったという話もあるそうです。

そして生き物だけでなく、自然もひとたび荒ぶれば、人が命を失う脅威になり得ます。大雨や強風で、巨木が倒れて押しつぶされたり、急流に呑まれたりすれば、ひとたまりもありません。

ここまで僕は未知の光景の数々に感動し、「やっぱり文明よりも、自然が素晴らしい」といった考えに傾いていました。しかし本物の自然がいかに厳しく、どれほど文明の力で安全に生きられてきたかも肌身に染みました。

もし町に猛獣が出れば、対応するのは自治体や警察ですし、けがや病気をすれば救急車を呼ぶことが出来ます。その”当たり前”がいかに有り難いかという事実も、再認識させられる思いでした。

会社に行かなくていい日々は幸せ?

アマゾンでピラニアを釣っていた少し以前、僕は東京都内のハローワークで、ある申告書に記入をしていました。

「自分に適した仕事を紹介されれば、すぐに応じられますか」

ア 応じられる イ 応じられない

このとき、五体満足で時間もあった僕は、“ア”に丸をつけて提出。しかし、それはすぐに働きたいという意欲からではありませんでした。“ア”を選ばなければ、雇用保険を受給できないという理由があったからです。

会社を逃げるように辞めて依頼、心はバキバキに折れたままで、本心では戦意をまったく失っていました。いま思えば視野の狭い話ですが、前職の失敗を引きずり、新しい職場に行っても「きっとああなる、こうなる」などと想像し、萎縮していました。

ちなみに退職して最初は、これまでにない自由に幸せも噛みしめました。「もう毎日、出勤しなくていい」「まいにち好きなことができる」。しかし、それも何日か経つと薄らぐどころか、憂うつに変わって行ったのです。

朝ベッドから起きると、近所で登校する小学生の声が耳に入ります。「おはようございまーす」「はーいおはよう、行ってらっしゃーい」。地域の見守りボランティアをしている、おばあちゃんの声にも活気があります。

食べ物を買いに外に出れば、建設現場で職人さんが一生懸命に働いていました。「上から渡すぞー、気をつけろー。」「はーい、こっち受け取りまーす」。部屋に戻っても、遠くから作業の音が聞こえます。カーン、カカーン。ドドドド・・。

「自分は何やっているんだろう?」世の中は前に進み続けているのに、自分だけが静止し続けているような、周囲との温度差が際だちます。これは経験したからこそ分かったことでしたが、「何もしなくて良い」はハッピーどころか、日が経つほど焦りや息苦しさが増して行くものでした。

メガネを盗るサル

アマゾンには町中のようなホテルはなく、拠点はジャングルの中に築かれたロッジでした。丸太の柱にヤシの葉を葺いた小屋が川沿いに点在しており、その間をいくつもの木道が繋いでいます。

雨季なのでさながら“水上の家”といった風情でしたが、乾期になれば“ツリーハウス”のようになり、どちらも対応できる作りになっていました。僕はこの場所が大好きで、今でも「またあそこで、過ごしたいな」という思いに駆られることがあります。

寝泊りする小屋から、船着き場や食事をする場所は距離があり、その間を移動するだけでも“ジャングルの冒険”といった気分になります。しかし、ここを訪れた初日、ある事件が起きました。

ガブリエルさんに食事場を案内されていたとき、周りに数匹の黒いサルが現われ、自分達の方に近づいてきました。「やけに人に慣れているな」と思った瞬間、そのうちの一匹が、自分の後ろにいた加藤さんにとびかかりました。

あまりの素早さに反応する余裕もなかったのですが、気づけば加藤さんがかけていたメガネを、盗られていたのです。この“メガネ盗りサル”は、ものの数秒で見上げるような高さの木の枝にジャンプし、もはや絶対に届きません。

サルはメガネを片手に面白そうに眺めていますが、加藤さんはスペアのメガネを持って来ていませんでした。この大自然を近眼の状態で過ごすのは厳しく、大ダメージです。

しかし、すかさずガブリエルさんが食事場の果物を掲げ、「ちっちっち」とサルにアピール。「こっちに来れば、これをやるぞ」というメッセージで、サルはしばらく考えている風でしたが、パパッと降りてきました。

そして果物を手わたす瞬間に、メガネを奪取。野生ながら少し飼いならされている様子で、おそらく一連の行動から、以前にも同じいたずらをしたのかも知れません。あるいはメガネを盗ればエサと交換して貰えると、学習していた可能性も高そうでした。

その知恵もそうですが、加藤さんはメガネを外していたわけでなく、顔にかけた状態でした。それを一瞬で外して持ち去る器用さも、並みではありません。僕は生まれて初めて、サルという動物に畏敬の念を抱きました。

あなたは本当のサルを知っていますか?

「あなたは、サルという動物を知っている?」

もしアマゾン行き以前の僕と、いまの自分が問答をしたとすれば、話がまるで違うものになると思います。

「いやいや、それくらい誰でも知ってる。動物園で見たこともあるよ」。

「なるほど。でもそれは、本当の意味で知っているとは言えない」。

過去の僕がイメージするのは、絵本に載っているような、半ばペット感覚に近い“おサルさん”です。しかしジャングルでは、その圧倒的な器用さや知恵で、自分たちの方が思い通りにされてしまいました。

そして人間が枝葉をかき分けてやっと進む密林を、自由自在に飛び回る身体能力は、どれほどトレーニングを積もうとも叶わず、その姿は圧巻でした。

ところで、この記事を書いている1年前、僕はYouTube一問一答のとある回を視聴し、アマゾンでの体験が鮮明によみがえりました。

相談者は中学2年生の男子で、小学生の頃から“ゴリラ”とあだ名をつけられていました。そして現在も、机の上に遺影を置かれ“ゴリラの葬式ごっご”をされるなど「クラス中からいじめを受け、もう死んでしまいたいです」という、切実な相談でした。

そのなかで大愚和尚は「ゴリラがどれほど優れた動物であるか、知っていますか?」と語り、“無知”について説かれます。その内容は僕にとっても、心から染み入るお話でした。

≫いじめの渦中にいる君へ|その正体を捉えなさい (※音が出るのでご注意ください)

あいにくアマゾンにはゴリラは住んでいませんでしたが、きっとアフリカの大自然でともに暮らす人間であれば、「やーい、ゴリラ」などとは、決して言わないのではないかと思います。

知っているようで知らないことを学ぶ体験は、世界の見え方を一変させます。そして、同じようなことはまだまだ、星の数ほどあるような気がしてなりません。

≫第4話はコチラ

連載記事 アマゾンの侍

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この記事を書いた人

原田幸文(こうぶん)のアバター 原田幸文(こうぶん)

寺町新聞の執筆・取材を担当。Yahoo!ニュース歴史・文化ライターとしての顔も合わせ持つ。小学生の秘密基地から南米のアマゾン川まで、どこへでも探訪。そこにある興味や発見、人の想い。それらを分かりやすい表現で、書き綴るのがモットー。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き。

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