大愚和尚

人生の節目を乗り越えるための重要な「力」

 私たちが生きていく上で、様々な「力」が必要です。本屋さんに行くと、決断力、会話力、雑談力など、様々な「力」をつけるためのノウハウ本が並んでおり、ベストセラーになっている「力本」も少なくありません。よりよく生きたい、幸せに生きたい。多くの人々がそう願って、次々と新しい力を手に入れようとしてる証拠です。

 今から10年ほど前、私はYoutubeというインターネット上の動画配信サービスを使って、『大愚和尚の一問一答』というお悩み相談番組を始めました。そこに日々たくさんの方々からの相談が届くのですが、その中でも多いのは、「心が弱いので意志の力を強化したい」という相談です。どうやらお坊さんは「心が強い」「意志の力が強い」と思われているようですが、そんなことはありません。人間ですから、お坊さんでも心が弱い人はたくさんいます。

 他にも、スポーツで優秀な成績をおさめたからといって、心が強いわけではありません。有名大学を卒業したからといって、心が強いわけではありません。一部上場企業の高給取りだからといって、心が強いわけではありません。それが証拠に、政治家でも、経営者でも、芸能人でも、スポーツ選手でも、悪事に手を染めたり、不正を働いたり、心を病んだりすることがあります。それらはみな、心の弱さの表れなのです。

 では一体、どうすれば心は強くなるのでしょうか。実は、心を強くすることはできません。心は強くするのではなく、「清らかに」「柔軟に」保つのです。

 私たちの心は、生まれた時には清らかです。けれども成長するに従って、欲、怒り、嫉妬、妬み、意地、見栄などの汚れがこびり付いていきます。汚れた手であちこち触れれば、周囲のモノや環境が汚れるように、汚れた心で話し、行えば、周囲の人の心や関係を汚してしまうのです。

 また、私たちの心には、生まれつき柔軟性が備わっています。例えば幼児は、転んで泣いてもすぐにケロッとして笑っています。まるでゴムボールのように多少凹んでも、また元に戻る柔軟性があるのです。けれども成長するに従って硬くなり、柔軟性を失ってしまうのです。この特性は心のみならず、体にも当てはまります。

 実は、体を強くすることはできません。体は強くするのではなく、「清らかに」「柔軟に」保つのです。

 筋力トレーニングをして筋肉量が増えても、それは真の強さとは言えません。それが証拠に、毎日のように筋トレするスポーツ選手でも、ちょっとしたことで本番前にケガをしたり、体調を崩したりしてしまいます。マッチョな筋肉マンが、意外と風邪ひきだったりします。

 私たちの体には、生まれつき免疫力が備わっています。けれども成長するに従って、睡眠不足、暴飲暴食、添加物の過剰摂取、運動不足などが積み重なって、清らかさと柔軟性を失っていきます。

 さらに私たちの心身は連動しています。心に汚れが蓄積して柔軟性を失えば、それは肉体の筋肉の疲労や病気を招き、肉体に汚れが蓄積して柔軟性を失えば、心の疲労や病気を招くのです。

 この精神の汚れと肉体の汚れが、回復の機会を与えられないまま、永年蓄積するとしたらどうでしょう。その結果は自ずと、不調、不幸となって私たちの心身、身辺に表れてきます。昔から「厄年」と呼ばれる不安定な年齢帯がありますが、「厄年」とはまさに、そのような時期のことを言うのです。

 「厄年」は決してスピリチャルな話ではありません。厄年あたりの年齢は、ホルモンバランスの崩れといった「肉体的ストレス」と、家庭、仕事、地域における役割の変化など、人生のステージ変化にともなう「精神的ストレス」が、まさにツインピークとなる時期。この時期が人生の節目であり、この節目をどう乗り越えられるかが、人生の質を大きく左右します。

 この節目を乗り越えるため欠かせない力があります。その力とは、「反省力」です。

 定期的に自らの心身・身辺を反省し、生活習慣や生き方を見つめ直すのです。とはいえ、子育て、仕事、遊びに忙しい私たちには、なかなかそのような機会も環境もありません。そこで考え出されたのが、お祓いや祈祷といった儀式です。

 お祓いの、「祓い」とは「払い」のこと。では一体、何を祓うのかというと「邪気や悪運」を祓うのです。

 では「邪気や悪運」とは何か。「邪気や悪運」とは、心に蓄積したネガティブな感情と肉体に蓄積した不必要な緊張のこと。

 家に蓄積した汚れを放置すれば、邪気や悪運を招きます。長年、ゴミも捨てていない、掃除もしていない家に入ったら、嫌な感覚を受けるでしょう。同じように、心身に蓄積した汚れを放置すれば、邪気や悪運を招きます。

 長年、欲や怒りを心に溜め、頑固で咳ばかりしている人に出会ったら、喜んで近づきたいとは思わないでしょう。ですから、適切なタイミングで、神仏の前に参拝して心身を清め、教えに触れて心身を柔軟に保つのです。

 幸い福厳寺には、私たちの心身を清め、柔軟さを取り戻すための儀式が受け継がれています。それが「福厳寺あきば大祭」です。

 あきば大祭で加持祈祷を受け、火を渡る。たった1日の、たったそれだけのご修行ですが、その効果は決して侮れません。私もこの福厳寺に育ち、45年以上、この儀式を行じてきてようやく、その威力を真に確信するに至りました。

 儀式には力があります。その力は、何となく、遊び半分で臨む者にも無意識下で小さく作用します。ましてやそこに、素直に、謙虚に、全身全霊を懸けて臨む者には、目にみえる形となって絶大な効果をもたらします。

 来る12月2日(土)に、福厳寺あきば大祭が執り行われます。どうぞ万障繰り合わせて儀式にご参加いただき、大いなる「自己反省」をして頂きたく思います。

 年末に向け、慌ただしい季節となります。どうぞ心落ち着けて、丁寧に、日々を御修め下さい。皆さまと皆さまの大切な人が、幸福でありますように。世界の人々が、幸福でありますように。生きとし生けるものが、幸福でありますように。

合掌
佛心宗 福厳寺 住職 大愚 元勝

2023年12月2日開催 福厳寺あきば大祭の詳細はコチラ

ABOUT ME
知哲(ちてつ)
寺町新聞編集長。ナーランダ出版社長。モチモチの大きな手からは想像できない、繊細な表現を得意とする。佛心宗福厳寺の僧侶であり、映像クリエイター。さらに、グラフィックデザイナーとしても佛心宗の各種取り組みに関わる。YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」では企画運営を担当。好物は里芋の煮っころがし。
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