「こんな手ぬぐい、はじめて見た!かわいい!」
寺町新聞の副編集長(志保さん)が、旅先でたまたま見つけたという手ぬぐい。そこには般若心経の文言が、シャレに掛けた絵とともに、描かれていました。
私は、一気に“仏教関連のアイテム”に興味が沸き、リサーチを試みると、他にもたくさんあるではないですか。
とくに目を惹かれたのが、女性向け通販で有名な株式会社フェリシモの公式部活“おてらぶ”が手がける、グッズの数々でした。
そのオシャレさは、一瞬で心を掴まれてしまう魅力が。デザインのみならず、仏教で伝えているさまざまな気づきや文化も、それぞれのコンセプトとして、丁寧に込められていました。
また全国のお寺を応援するプロジェクトも手がけていると知り、その詳しい内容に興味津々。
そこで早速、株式会社フェリシモの“おてらぶ”様に取材を依頼。すると、こころよく引き受けて下さり、グッズ開発を始め、今の世の中に伝えたいメッセージなど、深いお話の数々を伺うことが出来ました。
お寺グッズはどのように生まれる?
ー この素敵なアイテムの数々は、どのように誕生するのでしょうか
内村:さまざまな商品がありますが、モチーフとさせて頂いているものは、お経(経典の中で語られるストーリー)、お寺文化(精進料理、作務、巡礼の歴史)、仏教美術(法具、装飾品、仏教紋様)などが、多いですね。
“おてらぶ”のメンバーは皆、「お寺が好き」という共通点があり、それぞれが”好き”な気持ちを大切にして活動しています。
私は昔から仏像が好きなのですが、境内の空気や時間の流れが好きな人は、花手水をモチーフにしたグッズを作ったり・・。
お経で語られる内容に感銘を受けた、ある女性メンバーは、般若心経を概念化した商品を開発したりしています。
ー ひとつずつ絵で書かれた般若心経は、くり返しの部分もコピーではなく、すべて手描きと伺いました。他のグッズも一貫して、職人魂を感じます
内村:ベースにあるのは、仏教やお寺文化に対する敬意です。大切に伝えられてきた教えを、私たちが形にしてお届けする気持ちで作っているため、そこに“嘘”は無いようにしたいと思っています。
また、メンバーによっては“良し”とする部分にも、こだわりがあります。「もっと、こうしましょう!」と突きつめる部分は、職人魂に通じるものがあるかも知れません。
化学変化がオリジナリティへ
ー 可愛らしい一方で、どれもユニークさを感じます。唯一無二のセンスですね
内村:ありがとうございます。ユニークに感じるのは、仏教界ではふつうに存在しているデザインやアイテムを、日常使いに落とし込んでいるからかもしれません。
フェリシモでは生活雑貨だけでなく、ファッションやレッスン商品(絵や文字など)、手作り商品など、さまざまな商材を扱っています。普段から多様な商材に触れる中で、「どのアイテムに、仏教的ニュアンスのデザインを落とし込むと面白いか」をいつも考えています。
日々新商品を構想できる環境にあることは、“おてらぶ”の商品開発をするうえで、大きなメリットですね。
またフェリシモには社内交流の一環で、共通の趣味や好きなものを持つ社員同士が、仕事以外で関心や交友を広げる、“部活制度”があります。
“おてらぶ”のほかにも“猫部”“魔法部”“ミュージアム部”など色々ありまして、時にはそういう部活間でのコラボを行うことがあり、その中で新しいデザインが生まれたりもしています。
部活間を超えて「仏教は面白い」と思ってもらえたり。そういう所から、通常では考えられないようなオリジナリティあふれる商品が生まれたりします。こういうある種の”化学変化”を、これからもどんどんやって行きたいですね。
ー 今まで、特に人気を博したグッズはありますか?
内村:スノードームシリーズはとても人気ですね。毎年年末に新デザインを発売しています。
最初はTwitter(現在はX)上で“おてらぶ”アカウントの、フォロワーさんとのコミュニケーションがきっかけでした。過去の話になるのですが、フォロワーさんと一緒に商品を作りたく、2019年に“#おてらぶ企画会議”というものを投稿しました。
するとある方から、「仏さまの入ったスノードームがあったら素敵かも」とコメントを頂き、デザインのやり取りを経て、商品化することにさせて頂きました。
ふつうのスノードームでは雪が舞いますが、お釈迦さまがお生まれになった時には、一面に花が咲き乱れたエピソードがありますよね。それを表現したくて、花びらが舞う形を考えました。
結果、いろいろな方からご好評を頂くことができました。ぜひ、お釈迦さまの誕生日を祝うきっかけが、多くの方に広まったら嬉しいです。最近は多くのお寺からお問い合わせを頂くようになり、ご相談しながら数々のオリジナルグッズの、企画・開発もしています。
“おてらぶ”誕生のきっかけ
ー 原点の話になりますが、内村さんはなぜ“おてらぶ”を立ち上げられたのでしょうか
内村:発足は2014年になります。以前の私はレッスン関係の部署で、人生で初の商品開発に携わっており、思い悩んでいる時期でした。
その時に、奈良県の當麻寺(たいまでら)で、“写仏”をやっているという情報を耳にしました。写経は知っているけど、写仏って何だろう?とネットで調べてみると「心が落ち着く」とあったため、プライベートで行ってみたのです。
冬の、吹雪の寒い日でした。境内から写仏の部屋に入り、ストーブも用意して頂いていたのですが、それでも寒かったのをよく覚えています。そして静寂の中、ひとりもくもくと墨をすりました。かじかむ手で、少しずつ。
ー 何だか非日常の体験ですね
内村:はい、自分としては「これは1つの修行だな」と感じる部分もありました。
そして描き終えてみると、本当に気持ちがすっきりしていたことに、驚きました。恐らく無心に“集中”していたからだと思います。当時は“集中する”=“仕事”という状況だったので、自発的に自ら集中し、無心になるという経験は、とても新鮮でした。
自分が求めていたものは、こういった時間だったのではないかと思いました。お寺で何かを体験するのも初めてでしたから、たいへん思い出深い1日でした。
この自らの体験から、「暮らしの中でモヤモヤを抱えたままの人が、何かしら解決の糸口を見つけるきっかけとなるレッスンを、作れないか」と思い、“写仏”をモチーフにしたレッスン商品を開発することにしました。
しかし“写仏”となれば、仏教においての専門的な知識を必要とします。開発にあたっては、必ず僧侶の監修が必要だと思いました。
そこで弊社広報担当の知り合いで、奈良の寺社関係につながりが深い人を紹介頂いたり、インターネット寺院“彼岸寺(ひがんじ)”へ問い合わせをし、アドバイスをくださる僧侶とのつながりができたり、そうしてようやく商品化に至りました。
ー そうした多くの方とのご縁によって、商品が生まれていたのですね。現在ではお寺さんの方からも、様々なご要望があると伺いました
内村:はい、例えば、いつもお世話になっているお檀家さんに差し上げられるグッズを作りたい。あるいは、仏像の企画展を行いたいというお話を頂いたりします。
それだけでなく「広くお寺のことを知ってもらうために、何をすれば良いか」という根本的なご相談も。お陰さまで、様々なご相談を頂けるようになりました。
ー 仏教は一般的に“難しいもの”といったイメージもあるかと思います。寺院のご紹介をするとき、工夫されている点などはありますか
内村:そのお寺で大切にしていること、伝えていることを、できるだけ一般的な言葉に置き換えて伝えるようにしています。逆に本質をはしょるなど軽く扱ってしまっては、本当に伝えたい事と違ってしまうので、ご担当いただく僧侶の方と相談をしながら、表現方法を調整しています。
僧侶プロデュースの旅へご招待
ー お寺と地域を盛り上げるツアーを、手がけられていると伺いました
内村:はい、“巡礼108プロジェクト”と言います。僧侶の中には自分達のお寺だけでなく、地域全体を盛り上げたいと考えられている方も、少なくありません。そうしたお寺をみつけて、“おてらぶ”とともに地域を盛り上げるプロジェクトです。
地域のお寺を巡りながら、土地の名所や僧侶おすすめのお店なども知ることができる、観光マップを作ります。
ー 僧侶だから知るスポットですか、どのような場所か気になります
内村:僧侶の方の多くは、長くその土地で暮らし、地域の方と交流を続けていらっしゃいます。だからこそ知っている、素敵な景色やお店があると思うんです。
このパン屋のこのクロワッサンが絶品とか、ここの老舗旅館は素晴らしい風情があるとか、最初に私たちと僧侶で、マップを作って地域を紹介します。
またお店だけでなく、風景もその一つです。たとえば「この場所で夕方、限られた1時間だけ見られる景色がある」や、「冬のこの時期だけ見られる、雲海がある」など。
そういう風景は、観光でふらっと来た人が見つけることは難しいですが、僧侶の方に土地のキュレーターとなって案内して頂くことで、お寺めぐりが素敵な旅になるのではないでしょうか。
ー それは本当に、特別な思い出になりますね
内村:はい、お寺巡りをしながら地域を活性化するようなイメージですね。
編集後記
古き良き伝統に敬意をもちつつ、既存の枠に捕らわれず、お寺文化を応援し続ける“おてらぶ”の皆さん。この取材を通じ、私自身もさまざまな驚きや発見、そして学びを頂きました。
また宗派や地域を超えて、仏教を盛り立てたい気持ちは、福厳寺の願いともピッタリ重なります。この先もその活動を、ぜひ心から応援させて頂きたいと思います。
あらためまして、この記事ではフェリシモ(株)で商品開発に携わると共に、“おてらぶ”創設者の内村彰さんに、取材させて頂きました。
このたびはインタビューのお時間を頂き、本当に有り難うございました。
寺町新聞では、今後も仏教に関わる様々な取材や探訪を行い、ご紹介して行きたいと思います。ぜひ引き続き、ご覧頂けましたら幸いです。
取材:原田ゆきひろ