大愚和尚

視座を変えると見えてくる新たな世界

私たちが嫌悪する者

昨日、裏庭の草刈りをしていると、地面が6センチほどの幅で盛りあがっており、それが3メートルほど連続して続いている箇所をいくつか見つけました。モグラ塚です。

モグラは、地中で栄養源となるミミズやコガネムシの幼虫などを食べて生きています。けっして植物や野菜などを食べてしまうわけではないのですが、畑や芝生にいる昆虫を求めて活動するために、結果として植物や野菜が育たないという被害が発生してしまうのです。

一刻も早く罠を仕掛けて捕まえたいところですが、モグラは「鳥獣保護法」によって捕獲したり殺傷したりすることが禁じられています。だから追い出すしかありません。

先週、内弟子同士の話の中で、5人いる内弟子のうち「どうも一人だけが集中的に蚊に刺される」という話で盛り上がったそうです。なぜ彼だけが集中的に蚊に狙われるのか。その理由は、彼が一番若いからではないか、ということでした。

虫刺されは、誰にとっても嫌なものです。特に顔などを刺されようものなら最悪です。掻いた傷痕が残ることもありますから。蚊の虫刺されは「かゆ〜い」だけでは済まされません。死んでしまう場合もあるのです。

実際、地球上で最も人間を死に至らしめている生き物は蚊です。蚊が、黄熱病、デング熱、ジカ熱、マラリアなど、命に関わる重篤な症状を引き起こす伝染病の媒介となるのです。

WHOの発表によれば、年間2億人を超える人がマラリアに感染し、72万人が蚊によって死亡しているといいます。

多くはサハラ砂漠以南のアフリカを中心とする発展途上国で流行しているのですが、これだけ国際間の交流が進んでいれば、日本でも都市型の蚊が媒介するデング熱などは感染者が増加する可能性はあります。蚊を見つけたら、一刻も早く駆除してしまわなければなりません。

7月のはじめ、弟子の一人がハチに刺されて病院に行ったとの報告を受けました。その後もまた同じ弟子が、そしてまた違う弟子が、ハチに刺されたといいます。

人によってはハチの毒に過敏反応してアナフィラキシーショックを起こす場合があります。しかもアナフィラキシーショックが度重なると、命の危険もあるから要注意です。

例えばスズメバチを一匹発見しただけでも、それは巣がどんどん大きくなって、ハチが増えていく前触れでもありますから、一刻も早く巣を見つけて駆除しなければなりません。

モグラについても、蚊についても、ハチついても、インターネットを見ると、こうした情報があちこちに見られます。彼らはみんな害虫、害獣扱いです。

皆、懸命に生きている


そして、日常的にこうした情報に触れていると、モグラを見た瞬間、蚊を見た瞬間、ハチを見た瞬間に、私たちの心に、彼らに対する「強烈な嫌悪」が生まれます。けれども、冷静になって彼らの生態を調べてみると、自ずと視座が変わります。

例えばモグラ。モグラの寿命は3年から5年しかありません。もともとモグラは地上で暮らしていたのですが、生存競争が厳しく、サギなどの天敵も多いために地中に潜ったのです。

およそ4時間眠り、起きているときはエサを求めて穴を掘る。それが彼らの一生です。いくら地中に適応した彼らとて、エサを求めて固い土を掘り続けるには相当な体力を消耗します。だから新しい穴を掘るより、できるだけ他のモグラが掘った穴を利用したい。


かくしてモグラ同士穴を取り合って争うことも多く、敗れれば地上に追い出されます。けれども地上では食料を得難い上に、キツネやサギなど、地上からも空中からも天敵が襲ってくるのです。

しかも彼らは、12時間何も食べないと死んでしまいます。かくして彼らは今日も、エサを求めて穴を掘り続けているのです。

例えば蚊。彼らの寿命は1、2週間しかありません。そして人間の血を吸うのはメスだけ。蚊たちの主要栄養源は糖。だから通常、花の蜜や草の汁などを吸って生きています。けれどもメスたちは、卵を産む時期になると、タンパク質を求めて他の生物の血を吸うのです。


蚊のママさんたちは、炭酸ガス、皮膚の匂い、温度を感知して吸血源を探します。だから体温の高い子どもや、多汗症、酒飲み、フローラル系の香水をつけた人などが狙われやすいのです。

例えばスズメバチ。彼らの寿命は1年もありません。女王バチは春、冬眠から覚めると、たった一匹で巣作りを始めます。ある程度の巣穴ができると中に卵を産んで働きバチを増やし、だんだんと巣を大きくしていきます。

働きバチが巣作りに参加し始めると、女王バチは産卵に専念できるので、働きバチの数が急増するのです。

この時期が7月から10月頃。もっともハチ刺され被害が増える時期です。 しかしながら、気温が下がって冬に近づくと、働きバチたちも、旧女王バチも皆死んでしまうのです。そして次の春また、新たな女王バチが翌年の営みを開始する。それがハチの一生です。

視座を変えて自在に観る

福厳寺のご本尊は観音菩薩です。観音菩薩は、観自在菩薩とも呼ばれます。観自在とは、自在に観るという意味です。そして、観自在菩薩は、慈悲心の象徴です。

慈悲心とは、家族や友人といった境界線を越えて、生きとしいける命を思いやる心のこと。

すべての生き物にとって一番大切な存在は、自分自身です。この、自分を宇宙の最重要かつ最優先に思う心をエゴと呼びます。

「自分中心」「自分大好き」がまっとうな人間です。けれども、人間社会も自然界も、自分だけで生きているわけではありません。他の人、他の命たちとの関係の上に自分の命も成り立っています。

脳が進化し、科学的見地によって自然界の成り立ちを知ることができるようになった人間だからこそ理解できる事実です。モグラや蚊やハチを、人間のエゴから見ると嫌悪してしまいます。

けれども、視座を変えて彼らの立場になってみると、限られた寿命を、懸命に生きる命の姿が観えてきます。慈悲心を育てるためには、視座を変えて自在に観ることが大切。裏庭のモグラ塚を見て、そんなことを思うこの頃です。

どうぞみなさま、外仕事にあっては、誠意を尽くせど無理をせず、家庭にあっては、互いを思いやって協力する。

規律ある生活と、穏やかなる心を護持しつつ、人生の荒波を楽しみながら、乗り越えていきましょう。

合掌

佛心宗福厳寺住職 大愚 元勝

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