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【大愚和尚の物語~一隅を照らす~】第1話~厳しさの中、ヤンチャに育った幼少期~

2026 4/24
連載記事 大愚和尚の物語
2026年4月25日

この記事は、大愚和尚の幼少期から佛心宗誕生にいたる半生を、物語風にお届けするシリーズです。大愚和尚の歩みは、私たちにとっても大切な学びにあふれています。映画にも劣らないエピソードの数々を、ぜひ最後までお楽しみください。

目次

3歳からの仏教デビュー

1972年、のちに大愚和尚となる“元勝少年”は先代住職の次男として、誕生しました。 元勝少年には兄と妹がおり、3人兄妹の真ん中でした。

由緒ある禅寺の子として、また将来は僧侶となり伝統を受け継ぐ存在として、甘やかしとは真逆の教育を受けて育ちます。

3歳にはお経本を持たされ、お寺の法事にも連れて行かれました。そして道具を運ぶなど、福厳寺の一員としてお手伝いをする立場になります。

そうは言っても、本当はわがままを言ったり、遊んだりもしたい年頃です。

ある真夏の日、元勝少年は暑さにあえぐ法事の参加者を、うちわであおぎながら「ひいぃー、僕だって暑いのに。早く終わらないかなあ」と、子ども心に思ってしまうのでした。

しかし元勝少年にとって父であり、師匠でもある住職の教育は厳しく、お役目をサボることは許されません。

厳しく叱られるケースも多く、言うことを聞かないと、いろいろなお仕置きが待っていました。

「何をやっておるか!」という一喝に加え、元勝少年がいちばん怖かったのは夜、お寺の中で最も厳格なお堂に「反省するまで、入っておれ」と、閉じ込められるお仕置きです。

正面には歴代29人の住職が祀られ、その姿を彫った像や位牌も並べられ、子ども心に重々しい空気を肌身に感じます。

どこからともなく「悪い童(わらべ)はどこじゃ」「師の言いつけも守れぬとはのう」といった声が、聞こえて来るようでした。夜の暗さも相まって恐ろしく、お堂行きだけは避けたい思いが募っていきます。

そのため、ひとたび住職の怒りに火がつくと「あ、これはお堂行きになる」など、お仕置きのレベルを察知する能力が、磨かれていきました。

また元勝少年は体感として、父の視界に入り続けていると、より叱られるパターンが多いことを学びます。

自然とお仕置きを避ける方法も覚え、父の顔色が変わったと見るや一目散に逃げ、怒りがおさまるまで身をひそめるようになりました。

その結果だんだんと足が速くなり、隠れ方も上達していったのでした。

世界でひとつの粋な贈りもの

テケ、テンテンテン・・。ピーヒャラララ・・。「えー。毎度、ばかばかしいお笑いを一席……」

「くすくす」「あっははは!」


福厳寺にほど近いとあるホールで、坊主頭の“元・落語家”が、地元の人々を笑わせています。

彼はもともと東京で落語家として活動しており、腕を上げて一時期はテレビにも出演していました。

しかし、あるトラブルがきっかけで、その道が閉ざされてしまったのです。行く当てもなくいろいろな場所を流れ流れて、たどり着いた先が福厳寺でした。

住職は身柄を引き受け、新たに“ドウコウ”という名を授けました。お寺で第2の人生を始めることになり、さまざまな作業や行事を手伝いつつ暮らしていると、あるとき住職にこう言われます。

「あなたには人を楽しませる才能がある。その力で、たくさんの人を笑顔にしなさい」。住職のあと押しで落語会を開くようになったドウコウさんは、他人の気持ちが分かる温かい人柄で、聡明な人でもありました。

元勝少年はこのドウコウさんが大好きで、ドウコウさんもまた元勝少年ら3人兄妹を、実の子のように可愛がります。

たくさん良くしてもらった中、元勝少年にとって最高の思い出は、自分が誕生日を迎えた日の出来事でした。落語家の正装をしたドウコウさんがお祝いに、持ちネタを披露してくれたのです。

「するってぇと、お前さんあれかい」「おいおいダンナ、それを言っちゃあ、おしめえよ!」

このとき元勝少年は幼稚園児で、物語の内容はよくわかりません。しかし、その雰囲気や身振り手振りや、いろいろなことが面白く、元勝少年は目を輝かせました。何よりドウコウさんが自分のために、特別なお祝いをしてくれた事実が嬉しく、一生忘れられない思い出になったのでした。

真冬に起こしてしまった大事件

2月のある寒い日、住職夫妻はドウコウさんに留守をあずけ、法事に必要な品を買い出しに行きました。

ちょうどそのころ、幼稚園から帰ってきた元勝少年は、辺りをきょろきょろと見回しています。 「よし、お父さんもお母さんも出かけているな」。

屋内も冷え切っており、元勝少年は部屋に置かれたストーブの横で、制服を脱いで着替えたくなりました。けれど、それは両親から禁じられていたのでした。

当時のストーブは鉄の外装がむき出しで、触れれば確実に火傷をする高熱。今ほど安全に気を遣った設計ではなかったのです。

その上このときストーブにはヤカンが乗せられ、中のお湯がぐらぐらと煮立っていました。元勝少年がストーブの横に座り込み、ズボンを脱ぎ始めたところへ、妹がやって来ます。

ぬくぬくしている兄の姿を見て「あ、私もそこがいいなー」と言い出す妹に、元勝少年は「ここは僕の場所だもん」と、ひとり占め。

両足でキックしながら「あっちに行けよ」と遠ざけたので、2人は喧嘩になってしまいました。そうやってもみ合っていた瞬間、勢いあまった元勝少年の足が、思いきりストーブにぶつかります。

その拍子に、ぐらりと揺れたヤカンが倒れ、大量の熱湯が両足にふり注いだのです。

あまりの熱さと痛みのショックに、元勝少年は声を張り上げ、泣き叫びました。妹は顔を真っ青にし、「ドウコウさーん!」とあわてて廊下を駆けていきます。

おどろき駆けつけたドウコウさんは、目のまえの光景に一瞬、立ち尽くしましたが「患部を冷やさなければ」とつぶやき、急ぎ水道へ。ところが運悪く寒さで凍りつき、一滴の水も出ません。

「こ、こうなったら!」ドウコウさんは外へ飛びだすと、両手を霜柱のできた地面について冷やしました。そして戻ってくると、その手を元勝少年の足にあてがいます。けれど、手の冷たさは体温で、たちまち消えてしまいました。

ドウコウさんはすぐさま外に出て、霜柱に手を押しつけ、戻っては足にあてる動作を、何度も何度もくり返します。

外気は凍るように冷たく、室内の空気まで張りつめていました。その中で、元勝少年の泣き声と、ドウコウさんの荒い息づかいだけが、響いていたのでした。

とつぜんの悲しいお別れ

「はっ」と気がつくと、元勝少年は病院のベッドに寝かされていました。大火傷のショックで気絶してしまい、そのあと帰ってきた両親が、あわてて病院へ搬送したのでした。

両足の火傷は重く、しばらくは歩くこともままならず、車イスで過ごしました。それから手術が何回もくり返されると、不幸中の幸いでだんだんと回復して行きます。

けっきょく完治には至りませんでしたが、やがて歩いたり走ったりも、できるようになったのです。その回復の陰で、元勝少年は火傷とは別の、大きなショックを抱えることになりました。

それは事件の日を境に、ドウコウさんが福厳寺から姿を消したことです。両親にはまっ先に「ドウコウさんはどこに行ったの?」と聞きました。

すると両親からは「ドウコウさんはね『留守をあずかっていたのに、息子さんを守り切れず、火傷を負わせてしまいました。申し訳ありません』と、責任を感じて出て行ったんだよ」と言われました。

この出来事は、子ども心にも大ショックです。「僕のせいで、ドウコウさんがいなくなっちゃった」。元勝少年の心は後悔と寂しさで、いっぱいになってしまいました。

その後も折に触れて「ドウコウさんは、どうしているだろう」と思い返しますが、行方はいっさい分からず、両親は何も語りません。

事故当時の元勝少年にはいっさいを知るすべがない中、のちに出来事の経緯を冷静に振り返ると、きわめて不自然な点がありました。

ドウコウさんはなぜ“救急車を呼ばず、自己流の対処にこだわった”のでしょうか。

その行動には“重大な理由”が隠されており、元勝少年はのちにその真実を知ることになるのでした。


≫第2話に続く

※イラスト:和田幸子

連載記事 大愚和尚の物語
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この記事を書いた人

原田幸文(こうぶん)のアバター 原田幸文(こうぶん)

寺町新聞の執筆・取材を担当。Yahoo!ニュース歴史・文化ライターとしての顔も合わせ持つ。小学生の秘密基地から南米のアマゾン川まで、どこへでも探訪。そこにある興味や発見、人の想い。それらを分かりやすい表現で、書き綴るのがモットー。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き。

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