今回のゲストは、三重県桑名市で活動されている染色作家の澤山桃子さん。
澤山さんは、べんがら染めや草木染めなどさまざまな自然染色を手掛けられますが、今一番魅力を感じるという「土染め」について語ってくださいました。
澤山さんの染色三昧な生き方や想いを探ります。
営みの色を染める
土というものは、わずか1センチの堆積に100年以上の歳日がかかります。そんな土に触れるとき、還ることになった動植物、かつてその土とともに暮らしていた人々に思いを馳せ、「営みの色」を染めあげるといいます。
特にテーブルクロスやパン・おにぎりを包むおくるみなど、食事にまつわるアイテムを土染めする際には、土のストーリーをまぶたに浮かべ、食事やお茶のひとときを大切にしています。
始まりは、「土と食の世界」から
澤山さんが土を見つめるきっかけとなったのは、「薬膳料理」でした。
桑名市で料理教室を開いている斎藤純子さんは、料理のいろはの前に「地球と人の体のリズムは共鳴している」という話からはじめるそう。
それは、自然界を構成するものを五つの要素「木・火・土・金・水」(木=春、火=夏、土=梅雨、金=秋、水=冬)に分けるという陰陽五行説と、味覚の「五味」(酸味、苦味、甘味、辛味、塩味)が呼応し、「旬の素材を生かし、季節ごとの体に合う料理をいただくことで体を養生する」ということを参加者へ伝えていました。
それを聴いた澤山さんは、自身がなんとなく感じてきた皮膚感覚と通じるものがあったといいます。
澤山さんは、「土(自然)と食の世界」を一体的に考えるようになりました。
衣食住のつながり
その後、澤山さんはベンガラ染めを習うべく、大阪府羽曳野市にある「古色の美工房」へ足を運びます。
ちなみにベンガラとは、土からとれる酸化鉄を主な成分とする赤みを帯びた茶色の顔料のこと。とくに良質な土がインドのベンガラ地方で採取されていたことから、その名がついたといわれています。
さて、澤山さんは、師匠の小渕ユタカさんのこの時の「染めの話」が忘れられませんでした。なぜならそれは、薬膳料理教室で聴いた陰陽五行説と繋がる「土王五行説」の話だったからです。
さらに古来から、建築現場においても防虫・防腐効果としてベンガラが使われていることを知り、衣食住全てが「同じ自然の巡り」から成り立っていることに気づきました。
衣食住のどの切り口においても登場する「土」。澤山さんはここから「土染め」の世界に魅了されていきます。
幼い頃の記憶や、土がより身近になった転機、澤山さんのこれからの道を覗いてみましょう。続きは動画でご覧ください。
編集後記
今回取材をするにあたり、私自身も小渕ユタカさんのアースカラープロジェクトに参加し、自宅の土でエプロンを染めてみました。
染めたエプロンは、日が経っても、目にするだけでほっこりした気分になります。また体にまとうと温かく不思議な一体感があり、まさか「土」が私にこんな喜びをもたらすとは、想像だにしませんでした。
人は時には立ち止まり、自分の足元をとことん掘り下げてみると、取るに足りないと思っていたことが輝き出すのかもしれません。そして、心が感じる「いいな」を地層のように積み重ねて、自分の心を満たす。
澤山さんは「幸せは足元から」というメッセージを私たちに投げかけてくれたように思います。
インタビュアー 桐嶋つづる