寺町の風

シビれるカッコよさ!2つ名に刻まれた、ある絵師の生き様〈寺町の風〉

こんにちは、寺町編集室の原田です。

今年も早いもので3月も終わりに差しかかり、寒暖の差はありながらも春が近づく今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、ぼくはかねてより日本史に触れることが好きなのですが、思わず心を惹かれるひとつに、歴史人物の“2つ名”があります。

たとえば戦国武将の「“甲斐の虎”武田信玄!」と聞けば、格好よさにワクワクしますし、「“独眼竜”伊達政宗!」などの響きも最高です。

そうした数ある中でも、ひときわ大好きな呼び名が、江戸時代のとある偉人が名乗った「“ 画狂老人卍 (がきょうろうじん・まんじ) ”」。

なんとも異彩を放つネーミングですが、世界的に有名な絵師、葛飾北斎(かつしかほくさい)が晩年に使っていたペンネームです。

もともと北斎は、仏教を信奉していたことから“卍(まんじ)さん”※というあだ名で呼ばれていましたが、そこに“画(え)に狂った老人”という名前をかけ合わせています。

※卍(まんじ)とは、仏教やヒンドゥー教にて、幸運や吉兆を象徴する意味で用いられる表現。

彼は若かりし頃から、さまざまな名作を創り続けましたが、70才を超えた辺りで突然「今までの自分は何も見えていなかった。この歳でやっと本質が見えてきたぞ」と語り、このペンネームを名乗り始めたといいます。

通常“クレイジー”の意味もある“狂”という一字は、ネガティブなイメージが強いです。しかし北斎のレベルになると「人生のすべてを創作にかける!」という生き様の宣言に聞こえます。

どこかロック魂さえ感じる、時代を超えて色あせないネーミングセンスに、初めて聞いたときには思わずシビれました。

ところで、ぼくは以前にお仕事で、高齢者の生活相談に携わっていた時期がありました。

ご年配の方と色々なお話をする中で、とくにお気持ちの弱った方は自嘲的に「私はもう〇〇才ですから、あとはお迎えを待つだけです」と、口にされる方もいました。

そうするとお決まりのように「またまた、そんなこと言わないで下さいよー」などと、雰囲気が重くならないよう、できる限り軽いニュアンスで返していました。しかし、心の中では残念さを感じていたのが、正直なところです。

それを思い出すとき、もし晩年の北斎が聞けば「はっはっ、何をおっしゃいますやら。これからではございませんか!」と、粋に笑って返すのではないかと感じます。

現代よりもずっと平均寿命の短かった江戸時代。“ 画狂老人卍”の生き様は、いま高齢化社会の日本にもエールを送っているように感じられ、多くの意味で大好きな2つ名です。

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by寺町新聞編集室

ABOUT ME
原田ゆきひろ
寺町新聞の執筆・取材を担当。Yahoo!ニュース歴史・文化ライターとしての顔も合わせ持つ。小学生の秘密基地から南米のアマゾン川まで、どこへでも探訪。そこにある興味や発見、人の想い。それらを分かりやすい表現で、書き綴るのがモットー。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き。 ※写真は歴史衣装・体験中の筆者
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