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この記事は筆者の原田が、さまざまなマンガ・アニメの中に、仏教と重なる部分を見つけご紹介するシリーズです。
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僕は小学生の頃、東京の「多摩ニュータウン」という町に住んでいました。昭和の高度経済成長期、もともと森や林が広がっていた丘陵を切り拓いて造られた、当時の理想都市です。

この町は、ジブリ作品『平成狸合戦(へいせいたぬきがっせん)ぽんぽこ』の舞台にもなっています。物語では、自然の中で暮らすたぬきたちが、人間の開発を阻止しようと奮闘します。
最近このアニメを親戚の子どもたちと観る機会がありました。作中ではたぬきが「オラたちの森を返せ、山を返せ!」と訴えるシーンがあります。そう言われると、思わず「あ、そこに住んでました。すみません」と、申し訳ない気持ちになってしまいます。
多摩ニュータウンは場所によって、今も自然が残る地域と接しています。僕は小さい頃そうした場所に、探検のつもりで足を運びました。
一般的には都市から郊外へ向かうにつれて、景色は徐々に変わっていきます。ところが、かつて探検に行った場所は、住宅地から、とつぜん『となりのトトロ』の世界に迷い込んだような、不思議な境界がありました。
境界を越えると、カブトムシを見かけたり、田んぼでザリガニを捕まえたりと、田舎のような遊びを楽しめました。こうした思い出のせいか、僕にとって『平成狸合戦ぽんぽこ』と『となりのトトロ』は、どこか結びついて感じられます。
とくに『となりのトトロ』は、最後まで人間の暮らしと自然が調和した山里が舞台です。ひと昔前の日本にあふれていた、精神的な豊かさを感じるとともに、僕の目には仏教と通じる部分が、いくつも見えてきます。
具体的にはどのような所が重なるのか、ここから見ていきたいと思います。
善友と出会えるキーアイテム
『となりのトトロ』といえば、夜の空を飛ぶシーンや猫バスの登場など、心おどる場面が数多くあります。そうした場面に比べると派手さはありませんが、僕の心に残っている場面は、傘を渡すシーンです。

主人公のサツキとメイが暮らす近所には、カンタという小学生の男子が住んでいます。最初は「お前の家、お化け屋敷ー!」などと、憎まれ口をたたく、ぶっきらぼうな少年です。
しかし、ある日サツキがにわか雨に降られ、雨宿りしたまま動けないでいると、通りがかったカンタが傘を貸してくれます。そして自分はずぶ濡れになりながら、走り去って行きました。
その後、サツキは雨の日にバス停の横に立つトトロに出会い、自分の傘を差し出します。トトロはそれを受け取ると楽しそうに飛び跳ね、お礼に木の実を渡してくれるのです。
もしかするとサツキは「雨の日に傘を持たない人がいたら、渡してあげる」という行為を、カンタから受け継いだのかも知れません。
仏教には、自分が周囲の人に何ができるかを問い、見返りを求めず他者へ施す「布施行(ふせぎょう)」という修行があります。また、年齢や性別に関係なく、互いに良い影響を与え合う繋がりを「善友(ぜんゆう)」と呼びます。
傘のシーンを仏教的に表すなら『布施行を行ったことで、善友に出会えた場面』とも言えるでしょう。
福厳寺の大愚和尚も、以前「海外で傘の貸し借りを通じ、素晴らしい人と繋がりました」という話をされており、それとも結びついて感じられるエピソードです。
“大愚”の象徴だったトトロ

映画『となりのトトロ』の関連本に『トトロの生まれたところ』という一冊があります。
そこではトトロの舞台になった土地が、紹介されているのですが、途中で宮崎駿(みやざき・はやお)監督へのインタビューも、掲載されており、「トトロとは、何なのですか」という、本質的な質問が投げかけられています。
宮崎監督はその答えとして「トトロとは“大愚”の象徴です」と語っているのです。ここでいう「大愚」とは、「こう立ち回る方が利口」といった感覚を持たず、世の中的には「大バカ者」にも見える状態を言います。
アニメや漫画に登場するマスコットキャラクターは、愛嬌を振りまいたり、「友だちになろうよ」と、語りかけたりしてきます。一方で、トトロは言葉を話さず、何を考えているのか簡単にはつかめません。宮崎監督はあえて、このような設定にしていると述べています。
トトロは人間の尺度では測れない「大いなる存在」であり、いつでも出会えるわけではない。しかし、純粋な心を持ち続ける人にとっては、すぐ“となり”にいる存在でもあると、語っていました。

この在り様は、僕には共通する名を持つ大愚和尚と、どこか重なって見えます。「大愚」のお名前に込められた真意と宮崎監督の考えが、完全に一致するかどうか、僕には断定できません。
ただ何にもとらわれず、作為的なふるまうことがない大愚和尚の在り様は、トトロの設定と重なるように感じられます。
そして仏教も限られた人への教えではなく、素直な心で受け止めるほど、すぐ日常で実践できる教えです。現実とファンタジーという違いはあるものの、さまざまな場面で通じ合っているように思えます。
現実の自然も守り続ける「トトロの森」
現在、僕は東京の都心から郊外へ伸びる、西武線の沿線に住んでいます。最寄駅から少し電車に揺られると、トトロの舞台になった狭山丘陵にアクセスできる駅に、到着します。
この地には「トトロの森」と呼ばれる、山林があります。自然保護を目的とする団体が、宮崎監督と連携して取得し、守り続けている場所です。とても1日では回れないほど広く、かつ複数箇所に点在しており、豊かな動植物が息づいています。

テーマパークではないため、アトラクションなど目立ったものはありません。その分、のどかな森や山里が広がっています。そして、この地の公式ルールである「撮っていいのは写真だけ、残していいのは思い出だけ」さえ守れば、誰にでも解放されています。
一般的に、ジブリに縁のあるスポットといえば、福厳寺にも近い「ジブリパーク(愛知県長久手市)」や、「ジブリ美術館(東京都三鷹市)」が有名です。
「トトロの森」はあまりメジャーではありませんが、ハイキングに良い季節に、自然の中を歩く準備をして、巡るのがおススメです。
宮崎監督が愛する土地を、五感を研ぎ澄ませながら歩けば、トトロの息吹を味わうことができるかもしれません。
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※当記事の一部は、以下の書籍を参考にさせて頂きました。
『トトロの生まれたところ』 (スタジオジブリ/岩波書店)
※また当記事に使用しているアニメ画像は、以下のWEBサイトより引用しています。
【スタジオジブリ公式ページ】https://www.ghibli.jp/works/totoro
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