寺町の風

きれいなものは、時間がかかる― 職人の言葉が示す道しるべ〈寺町の風〉

こんにちは、寺町編集室のみさきです。

みなさんは、人生の節目や悩んでいるときに、ふと思い出す言葉はありますか?私には、ある方からいただいた忘れられない言葉があります。それは、ずっと私の心の支えとなっています。

数年前、ある職人の方が、わが家の壁紙を貼りに来てくださった時のことです。

丁寧で巧みな手さばきは、見ていて気持ちがよく、しばらくのあいだ夢中になって眺めてしまいました。

すると、その方は私の顔を見てほほ笑み、「きれいなものは、時間がかかるんです」とおっしゃったのです。

彼の少し複雑な笑みからは、苦労の片鱗がうかがえ、その一言には、「この作業は時間がかかるから、骨が折れる」という意味が込められているようでした。

しかし、誇らしげな声のトーンからは「簡単にはいかない作業を丁寧に積み重ねてこそ、きれいなものを作り出すことができる」という、長年の経験に基づく信念を感じました。

ところで、現代ではテクノロジーの発展により、あらゆることが迅速かつ手軽に行えるようになりました。

だからこそ、職人の方がおっしゃった「きれいなものは、時間がかかる」という言葉が、私の心に深く刺さったのだと思います。

便利な環境に慣れてしまい、時間をかけてものごとに取り組む大変さと、その過程によって得られる価値を学ぶことがなかった自分に気づき、ハッとさせられました。

それから数年たった今、職人さんの言葉を思い出し、考えることがあります。

どのような意味で「きれいなもの」とおっしゃったのかは分かりません。しかし、私なりに解釈するとすれば、「きれいなもの」には「心」も含まれているのではないかと感じています。 

そう思ったのは、仏教とは何かを端的に表した七仏通誡偈(しつぶつつうかいげ)という偈文を知ったときでした。

七仏通誡偈には、自浄其意(じじょうごい)という一文があります。これは、「心を清らかにしなさい」という意味だといいます。そして、この七仏通誡偈は「3歳でも理解はできるが、80歳でも行うのは難しい」と言われているそうです。

私自身も、自浄其意を日々の生活で実践するのは難しいと感じます。つい、怠けたり、愚痴を言いたくなってしまう自分が顔を出すのです。

まさに職人の方がおっしゃっていたように、きれいなもの(清らかな心)を作り上げていくのは、簡単なことではなく、時間がかかるのだと感じています。

自分の心がまだまだ未熟だと痛感し、挫折しそうになるときは、職人の方からいただいた「きれいなものは時間がかかる」という言葉を思い出すようにしています。

すると、その言葉が道しるべとなって、修行に時間がかかってしまう自分を自覚しつつも、清らかな心に近づくための努力を積み重ねていきたいと、改めて思えるのです。

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by寺町新聞編集室

ABOUT ME
上田みさき
寺町新聞の執筆・取材を担当。日常の小さなことから得た学びや気づきを取り上げて言葉に紡ぎ出すことに心を注ぐ。心を磨き、しなやかに生きるために仏教の教えを日々実践中。趣味は旅行・英語・デジタルイラスト・折り紙・小学生から続けているダンス。好きな食べ物は抹茶アイス。
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