母からの便り

「何の不安もありません。受け継いでくれる子供たちがいるから」鈴口ふみえさん/母からの便り

今回のゲストは、世界遺産で知られる岐阜県白川郷の「合掌乃宿 孫右エ門(がっしょうのやど まごえもん)」で初代女将を務める鈴口ふみえさん。

今は亡きご主人とともに民宿を立ち上げてから40年。今尚多くのお客様に愛される宿の経営で得た人生の知恵とは、また家族で一丸となって営み続けるために大切にしてきた想いとは、どのようなものでしょうか。

ご主人への感謝と、子供たちへの願い。長い歴史の中に息づく合掌造りの家屋を守りながら、次世代へとバトンを渡す鈴口ふみえさんからのお便りです。

手作りのおもてなしを~夫との約束~

19歳の時、お見合いで出会ったご主人と結婚。その頃、白川郷には宿はまだ4軒しかなく、観光客をまかないきれなくなっていたため、役場からの勧めで昭和47年に夫婦で民宿を始めました。

始めるとすぐにお客様がいらっしゃり、働き者のご主人とともに、慣れない鈴口さんもまた一生懸命おもてなしをしたといいます。

鈴口さんは宿を始める時に、ご主人と約束をしました。それは、「必ず手作りの料理でおもてなしをする」こと。

品数が足りなければ、ご主人が畑で育てる野菜を採っては、その場で工夫して調理したそう。そしてご主人は、お客様が食事を終える頃に必ず席に入り、会話のおもてなしを欠かしませんでした。

晩年「俺たちの人生も終わりだな」と寂しそうに肩を落とすご主人に、「でも一生懸命やってきたよね」と夫婦でねぎらい合ったことを、鈴口さんは懐かしそうに振り返ります。

「主人がいてくれたから、私もここまでやってこられました」

鈴口さんは、今でもご主人への感謝の気持ちを忘れていません。

次世代にバトンを渡す

ご主人が手掛けられなくなった田んぼの作業の手伝いをきっかけに、徐々に息子夫婦が宿の経営にも手を差し伸べてくれるようになりました。

息子夫婦が2人で仲良く力を合わせて引き継いでくれたことが何より嬉しく、その姿を見て鈴口さんはある気づきを得ます。

「人はまかせればやってくれる。私がでしゃばり過ぎていたのかもしれない」

鈴口さんは、「とにかく若い人が自らの力で進む道を邪魔しないよう、自らに言い聞かせています」と、次世代にバトンを渡す大切さを切々と語ります。

土台の石に託す想い

鈴口さん夫婦は長年に渡り、「お金は残せないけど、この家が私たちの残したものだと思ってほしい」と息子夫婦に話してきました。

ご主人はその言葉の通り、「孫子の代までこの家が丈夫であるように」と、長年の影響でずれ始めていた柱の土台の石すべてを、新しいものに替えて家を引き渡したのです。

ご主人が土台の石に託した想いを受け継ぎ、次世代に託そうと心に決めた鈴口さん。今何を想い、何を願うのでしょうか。

鈴口さんの温かく愛に溢れた「母からの便り」、続きはぜひ動画でお楽しみください。

※動画は以下の画像をクリック

編集後記

私たちは、誰もが先人たちの残した「想い」や「モノ」を引き継いで生きています。

さまざまな想いがありますが、ご先祖様が心から大切に思い、私たちに伝えたいことに共通してあるのは「真の豊かさ」ではないかと私は考えます。

「何の不安もありません。受け継いでくれる子供たちがいるから」

鈴口さんのこの言葉には、今こそ改めて考えたい「真の豊かさとは何か」のヒントが隠されているように思います。

唐木 貴子

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