逆境のエンジェル

一年間の連載を通しての気づきと来年の抱負(第43話)

逆境のエンジェルとは

「逆境のエンジェル」とは、アメリカで生活する筆者が、自らの人生をふり返り、いじめや身体障がい、音楽への情熱、音楽療法士としての歩み、異文化での生活、異文化間結婚、人種差別など、さまざまな体験・挑戦を通じて得た気づきと学び、成長をつづった物語です。

前回のあらすじ

 ロマリンダ大学研修で訪れたホームレスシェルターと、医療センターで見たものから得た気づきを書いています。(第42話「アメリカのホームレス支援と医療現場で見た現実:分断と共生のはざまで」はこちらからご覧ください)

一年間を振り返って

 2024年も気づけば年の瀬を迎えました。クリスマスや年末年始の準備に追われるなか、読者のみなさまも、あわただしく過ごされていることと思います。

 今年1月に始まった『逆境のエンジェル』は、早くも43話目を数えます。

 この節目に、一年間を振り返りながら、執筆を通じて得た気づきや学び、そして来年への抱負をお話ししたいと思います。

 今年の始まりは、元日に発生した能登半島の震災でした。さらにそれ以降、温暖化が引き起こした自然災害が世界中で相次ぎ、終わりの見えない戦争や経済不安など、私たちの未来に影を落とす出来事が続きました。

 それでも夏のパリオリンピックでは、多くの国々の選手たちが、私たちに感動と希望を運んでくれました。

 そして、ドジャースの大谷翔平選手や、X JAPANのYOSHIKIさんをはじめ、海外で活躍する日本人の方々が、私たちに多くの勇気を与えてくれた年でもありました。

点と点とのつながりのなかで

 この連載では、「逆境」をテーマに、私自身や周囲の経験を通して、困難のなかに見える気づきや成長を描いてきました。

 そのなかで改めて実感したのが、連載第1話で引用したスティーブ・ジョブズ氏の言葉、「すべては点と点でつながっている」という真理です。

 一見するとバラバラに見える出来事も、振り返ればすべてが大切な「点」として、私の人生を形づくっているのだと強く感じます。

 生まれつきの身体的障がいに悩み、いじめを受け、自分を受け入れられなかった幼少期。

 「絶対に見返してやる」と、意地になった思春期。音大入学のために必死で練習を重ねた年月。

 そして、カトリックの学校で「本当の美しさとは何か」を問われ、その答えを求めて必死になりながら、自分の居場所を見つけたい一心で日本を飛び出し、イギリスで音楽療法を学んだ20代。

 そんな時期があったからこそ、いまアメリカで働いている自分がいるのだと思っています。

 さらに、アフリカ系アメリカ人の夫との出会いが、私に人種差別という社会課題と向き合う機会を与えてくれました。

 この経験は、連載の重要なテーマのひとつとなりました。

 また、州立病院という少々特殊な職場環境で取り組んでいる、和太鼓や折り紙を通してのセラピー。これらがもたらす癒しとつながりの力も再確認しました。

 そして、コロナ禍という未曽有の試練を通じて、偏見や困難を乗り越えながら、内省を重ねる日々がありました。

 こうした出来事は、一見すると逆境に思えるかもしれません。しかし、その背景には、私を支えてくださった多くの方とのご縁があったのです。

 第1話からお読みの方はお気づきかもしれませんが、困難に出会うたびに、両親をはじめ、節目節目で出会った方々のアドバイスや援助が、選択可能な道標を示唆してくれていたことがわかります。

 執筆を始めるきっかけとなったのは、ほかでもない、大愚和尚との出会いでした。

 和尚からの「歴史を勉強して本を書いてください」というひとことが、書くことに苦手意識のあった私の背中を押してくれました。

 その書き始めた文章は、ナーランダ出版の廣瀬社長(知哲和尚)の提案で『逆境のエンジェル』と名付けていただき、連載という形となり、Kさんのていねいな編集によって読者のみなさまに届けられています。

 この流れ自体が、まさに「点と点がつながった結果」「ご縁」であると感じています。

気づきと学び

 執筆を通じて最も強く感じたのは、人とのご縁が人生を支える力であるということです。

人生という物語の主人公は他でもない「あなた自身」。

あなたの前に立ちはだかる問題、邪魔する存在は、

人生の物語を彩る演出にすぎない。

物語の鍵は、常にあなたが握っている

「心のクセ」2024年カレンダー12月 ナーランダ出版

 

 上記の言葉のように、ときとして理不尽だと思う出会いや出来事があったとしても、それがのちに自分のよい経験に変わり、糧となっていることにも気づかされました。

 そして何よりも、読者のみなさまから寄せられたコメントや感想、アドバイスは、執筆のエネルギーになりました。

 今年のあきば大祭でお会いした方々に「読んでいますよ」と声をかけていただいたときは、心からうれしく、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

 モニター越しに感じていた読者のみなさまと、直接つながる瞬間は、言葉に尽くせぬほどの喜びでした。

 また、「文章を書くこと」がいかに人をつなぎ、共感を生む可能性があるのかも実感しました。

 自分の体験や思いをていねいに言葉にして伝えることで、読者の方々に寄り添い、心に触れるものを届けることができるのかもしれない…。

 その可能性を信じて書き続けた一年でした。

 同時に、他者の声に耳を傾け、その物語を共有するなかで、自分自身の視野の狭さにも気づかされました。

 文章を書くという行為自体は、いまだに苦手意識を持っています。

 しかし、それを通して自分の考えを整理し、新たな視点を得る、貴重な機会であるとも痛感しています。

※ アメリカに戻る飛行機のなかで撮った東京の夜景

来年への抱負

 2025年は、『逆境のエンジェル』の内容をさらに深く掘り下げ、多様なテーマに挑戦していきたいと考えています。

 これまでの内容に加え、異なる文化や価値観、そして新たな視点から描く物語を通じて、読者のみなさまにとっての新しい気づきや発見のお役に立てればと思っています。

 また、私自身も引き続き、邁進し続けていきます。いま私たちが抱えているさまざまな問題に向き合い、仏教の学びをさらに深め、日々の生活や執筆活動に活かしていきたいと思います。

 そして何より、佛心宗の請願である「慈悲」「智慧」「佛性」を磨き、日常のなかで得た気づきを、連載を通じてみなさまと共有していくことを目指したいです。

感謝の気持ちを込めて

 最後に、この一年間、この連載を支えてくださったすべての方々に、心から感謝申し上げます。

 読者のみなさまの声、コメント、そして応援が、執筆継続への原動力になりました。

 編集や提案でこの連載を形にしてくださった廣瀬社長とKさん、執筆を後押ししてくださった大愚和尚、執筆に没頭して食事の準備など家事がそっちのけになってしまう妻を、温かく見守ってくれた夫のドナルド。

 出会ったすべての方々とのご縁が、この一年の私をつくってくれました。

 先日訪問したロマリンダ大学で作成した「感謝の木」(上記写真)は、枝と幹だけが描かれたキャンバスに、学生や教師が親指の印で葉を作り、一本の木を完成させたものです。

 その木は、一人ひとりの光が集まって全体を照らすように見えました。

 この木が、それぞれ訪問した施設に届けられ、この光が、他の人を照らす存在となることでしょう。

 私もみなさまの心に小さな光を灯す存在であることができるように、2025年を歩んでいきたいと思います。

 来年もどうぞよろしくお願いいたします。みなさまにとって新しい年が、心穏やかで笑顔に満ちた一年になりますように。

合掌

 次回、2025年最初の投稿は1月13日夜7時です。

記事の一覧はこちら

感想、メッセージは下のコメント欄から。みなさまからの書き込みが、作者エンジェル恵津子さんのエネルギーとなります。よろしくお願いします。by寺町新聞編集室

ABOUT ME
エンジェル 恵津子
東京都出身。音大卒業後イギリスに渡り、現在はアメリカのカリフォルニア州立病院で音楽療法士として勤務。和太鼓を用いたセラピーは職員、患者共に好評。厳しい環境下で自分に何ができるのか模索しながら、慈悲深く知恵のある人を目指して邁進中。 歌、折り紙、スヌーピーとスイーツが大好き。
最新の投稿

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です