2023年12月2日(土)、福厳寺であきば大祭が行われました。そこでは何が行われ、儀式にはどのような意味合いが込められているのでしょうか。この記事では全3回に分け、その様子をお伝えして参ります。ぜひ最後まで、ご覧いただけましたら幸いです。
荒ぶる火柱のすさまじさ
師走に入り寒さがますます強くなってきた12月2日。夕刻になり、山からひんやりとした空気が降りる中、福厳寺の境内には、かがり火や提灯の明かりが灯され始めました。
本堂前に築かれた結界の内側に松明(たいまつ)の火が降ろされると、たちまちメラメラと燃え広がります。みるみるうちに隣の火、そのまた隣の火が合わさり、巨大な火炎に。
この炎がもし儀式でなく町中で起こったならば、とても初期消火は叶いません。ただちにその場から逃げなければならないほどの火勢。
火を鎮める祈りの真言を、僧侶が唱え始めました。
オンピラピラケンピラ、ケンノンソワカ
オンピラピラケンピラ、ケンノンソワカ
結界の際に身を置いていると、外側に居るにも関わらず高熱の空気にさらされ、顔を背けたくなるほど。まして内側はどれほど熱いのか、はかり知れません。そのうえ火は縮んだかと思えば伸び、風に煽られれば、あらぬ方向へうねります。
もはや生身の人間ではあらがいようのない、畏怖さえ感じる炎です。そこに、火の動きを観察し、火渡りの開始を見極める大愚和尚の姿がありました。
「あの中を生身で、本当に?」無事をお祈りする想いと、巨大な炎の恐ろしさと、しかし絶対に目を背けてはいけないような。そうした、様々な気持ちがない混ぜとなった、言い表しようのない緊張感が場を包みます。
そして・・大愚和尚が、火の中へ吸い込まれるように踏み出すと、間髪入れずに僧侶たちも続きます。
もし少しでも油断すれば、まちがいなく危険と隣り合わせの儀式。これを毎年、なぜ行うのでしょうか。「もう少し、火を小さくした方が安全では?」。折に触れて、こうした心配のご意見も寄せられると言います。
しかし福厳寺は今までもこれからも、火の勢いを変えない覚悟を貫き続けています。それはいったい、どうしてなのでしょうか。
運営スタッフから伝わるメッセージ
時刻はさかのぼり、当日の朝。頭がスッと引き締まるような、冷たく澄んだ空気の中、あきば大祭の運営スタッフが、本堂に集合していました。
朝礼が始まると皆でお経を読み、終わりに全員へ向けて、大愚和尚からのお話がありました。
「このあきば大祭。毎年、影でどれほどの方が動き、見えない所で種がまかれて来たことでしょうか。一気に大きくなったのではありません、毎年の積み重ねによって少しずつ、全国に広まって行きました。
あらゆるビジネスや人生も、この法則と同じです。どれほどインターネットが発達しても、一気に成功することはないのです。ぜんぶ小さく小さく、自分の言葉、自分の行い、それを積み重ね、人々と力を合わせて成して行く。それしかないのです。
あきば大祭も、これを育てようとする人達によって受け継がれて来ました。その歴史の継承者が、皆さん達です。
きょうは朝から皆さんと“空(くう)”の境地を教える、般若心経を唱えました。この意味するところは、性別がどうとか、お金を稼いだとか稼いでいないとか、今年はちょっと失敗してしまっただとか、最終的に私たちの命には、なにも関係ないということです。
人生の小さな失敗は関係ない。きょう皆さんは是非このことを覚え、秋葉三尺坊(あきばさんじゃくぼう)の教えを自ら体現するつもりで、 堂々と来訪者をお迎えしてください。
それが必ず皆さんの力となり、その在り方を目にすることで、気持ちが安心される方もいる。それがお祭りの大事なメッセージとなります」。
大愚和尚のお話は、朝なので簡単にご挨拶を……というものではありませんでした。あきば大祭がどのように成り立ち、皆に「このようにあって欲しい」と、全身全霊の想いを込めたメッセージ。
始まりの朝、本堂の全員がその言葉を胸に抱き、それぞれの持ち場へ散って行きました。
グルメも堪能できるあきば大祭
“秋の葉”と書くお祭りの名前にも似つかわしく、季節は紅葉まっ盛り。ほんのり黄緑色から、オレンジや赤色のグラデーションが、境内を美しく彩っていました。
あきば大祭には大きく分けて、2つの顔があります。1つは日中の“お祭り”そのままのイメージ。11時にスタートすると、陽が高くなるにつれて人の数が増え、にぎわいを見せて行きました。
まず目に入るのは、数々の飲食ブース。広場にはキッチンカーや屋台が並び、和洋中の様々な食事に、スイーツや飲み物も売られ、来場者を楽しませます。すべては書き切れませんが、ほかほかの肉まん、食欲をそそるステーキ丼、自然の甘みを凝縮したさつまいもスイーツなど。
池のほとりで1人じっくりと味わう方、テーブルを囲んで談笑するグループ、あるいは最初は個々でいらっしゃったにも関わらず、その方たち同士で仲良くなっている人々も。声をかけ合い、それぞれ買った食べ物をシェアして、楽しまれている姿などもお見かけしました。
福厳寺の名物となりつつある万福庵では、いちど飲むと忘れられないホットグレープジュースに、和尚の名を冠する“大愚煮”が大人気。
「お寺の料理だし、薄味かな?」と思いきや、にんにくや鶏肉のだしが溶けこんだ煮汁が、絶品です。
どんと存在感のあるダイコンを、ふうふうしながら口に入れれば、噛んだ瞬間にほろりと崩れる柔らかさ。染み込んだだし汁とともに、口の中に広がります。そして、お芋や鶏肉に箸を移せば、こちらも見た目以上の柔らかさ。
食べるほどに身体も温まり、思わず「ああ~」という喜びの感嘆詞が、出てしまいました。空腹が満たされるだけでなく、カラダも喜んでいるような感覚。この“大愚煮”、ぜひ多くの方にも、いちど召し上がっていただきたい思いです。
心を満たす体験と思い出
広場では佛心宗に関わる人々が、それぞれの「仏性」を活かして作成した商品や、お土産の販売、また様々な体験が行えるワークショップも開催されていました。
福厳寺の苔を使用した「苔テラリウム」作りや、「写経・写仏」ワークショップは海外の方も、興味深そうに体験しているお姿が。
先々、大愚道場を開催希望する地域を示すボードが置かれたブースでは、そうした話題を中心にスタッフと交流されている方も、大勢いらっしゃいました。
また私たち寺町新聞のブースにおいても、境内の百日紅で染めたストールや、栄養と美味しさあふれる“緑米”、また福厳寺の建材から作られた、オリジナル数珠の販売が行われました。
少し手前味噌にはなりますが、記事で製作秘話を連載したこともあり「あれを見て、買おうと思いました」という方もいらっしゃるなど、たいへん好評を頂きました。
そして禅語をベースに書や画を手がける、聞法 宏大(もんぽう こうだい)氏による、オリジナルポストカードは、その場で希望の文字を聞く実演も。多くの方が手に取り、当日の思い出とともに持ち帰って下さいました。
また今年は、こうしたお祭りの様子を国際交流部ブースが、ZOOMでリアルタイムに配信しました。この試みは、「ここに来たいけれど、行けない」という海外在住の仲間に対し、雰囲気を伝えたいと企画されたものです。
国際交流部の会員は国内外で結びつきが強く、週に1回はZoom交流会を行い、大愚和尚の動画や本に触れ、「どう感じたか」を意見交換したり、ときには皆でお経を唱える回もあると言います。
ITで世界と繋がれるようになったこの現代。仏教という伝統を敬い、一方で最新技術も活用し、さまざまな結びつきを実現されています。
このように、ときに学びや交流も交えながら、楽しい雰囲気にあふれる日中のあきば大祭。一方で、そこから徐々に日が傾き始めると、もうひとつの側面が顔を見せ始めます。
次の記事では、この行事の根幹ともいえる加持祈祷・松明行列・火渡りの様子や、大愚和尚の法話についても詳しくご紹介します。引き続きご覧ください。