アマゾンの侍

地球の裏のふしぎな世界|アマゾンの侍(第2話)

➤ この記事について

筆者の原田が原始時代のような南米のアマゾン川の大自然を旅して、世界の見え方や価値観が変わった、一連の体験をお伝えするシリーズです。ぜひ「こんな世界や価値観もあるのか!?」など感じつつ、お読みいただけましたら幸いです。

≫第1話はコチラ

あふれ出る人々のエネルギー

ブラジル・マナウス市のホテルで一泊して朝方、ベッドから起き、窓から何げなく外を見て驚きました。

前日は夜の到着で見えなかったのですが、向かいの通りには道端に布のようなものを敷いて、寝ている人が大勢います。

日本でもホームレスの方は見かけますが、それよりも大きな貧富の格差を実感させられる光景でした。また外出の際には、いかにも旅行者というのが分かれば、強盗のターゲットになるという情報を得ていました。

スマートフォンで写真を撮ろうと無防備になったり、地図を見ながらキョロキョロしたりといった行動も、大っぴらには出来ません。

食べ物などを買いに出るときには、ラフな服装でサンダルを履き、ビニール袋を片手に「ここ、慣れていますよ」というオーラを、醸し出して歩きました。

しかしホテルの受付をはじめ、周辺にたくさん出ている屋台の店員も陽気な人が多く、「ボン・ジーア!(おはよう)」と明るく挨拶をしてきます。

ホテルの側には市場があり、バナナを山もりに積んだリアカーを、上半身はだかで引いて行く労働者。道端で豪快に水をかけ、洗車をしている人。楽器を弾いたり踊ったりしている人など、色々なものがごちゃまぜですが、とにかくエネルギーがあります。

また日中でもあったからか、少なくとも周辺で危ない雰囲気を感じることは、ありませんでした。

具が豪快に盛られたホットドッグをほお張ると、お腹も満たされて明るい気分になりました。

通りは様々な人種の人であふれ、とにかく色々な物を売ろうと、行商人が話しかけてきます。

そうかと思えば、すれ違いざまに突然「コンニチハ」と言われ、「えっ!」と驚いて振り向くと、とくに交流しようというわけでもなく、笑顔で手を振って去る人もいました。

人同士の距離間といい面白いけれどカオスな雰囲気といい、本当に遠い国へ来たのだという事実が、肌身に染みます。

そして誰ひとりとして知り合いがいない半面、自分を肩書きなどのステータスで見る人はおらず、ただ1人の東洋人という立場に、心の軽さを感じていました。

被告人になったかのようなミーティング

マナウスの町を歩いていた少し以前、僕は東京の職場のオフィスで、フロアの従業員全員の前に立たされていました。

仕事で気のゆるんだミスをしてしまい、後輩たちのケースと同じ「この問題をみんなで考えよう」というミーティングです。

しかし、ただでさえ人目が気になる性格だった僕にとっては、裁判にでもかけられているような心持ちです。時間は定時を過ぎ、怖い上司からうながされます。

「ほら、お前のせいでみんな帰れないぞ。どうするんだ、はやく言えよ。」

緊張と焦りでパニックになり、言い訳のような何かを口にしてしまいました。

「おい。お前いま、なんて言った?」

よりによって、これは日ごろから“一番ダメだぞ”と言われていた態度でした。

世の中には“火に油を注ぐ”という言い回しがありますが、これ以上ふさわしい表現はありません。

それどころか何百度にも煮立った天ぷら油の鍋に、ガス缶でも放り込んだような衝撃です。

「遊びでやってんじゃねえんだぞ、こらあ!」

そこからは恐怖のあまり放心状態となり、どのくらいの時間が経ち、どう終わったのかもハッキリと覚えていません。

気付けば1人ゾンビのように深夜の街を歩き、ひとり暮らしのアパートに帰り着いていました。

これで翌日が出勤であれば、とにかく行かなくてはと、いつもの習慣で身体が動いていたと思います。

そして「きのうは、済みませんでした」と謝れば、「オレも熱くなりすぎた、悪かったな」などと肩を叩かれ、会社員を続けていたかも知れません。

しかし、たまたま土日という巡り合わせが、前夜の恐怖を脳内でリピート再生させ続けました。

また本当のところは分かりませんが、従業員の全員から断罪されたように感じ、この世の終わりでも来たような気分です。

少し前には“辞めたい”と訴える後輩を引き留めておきながら、気づけばスマートフォンで“退職,手続き”などと、検索をしている自分がいました。

コーヒー色とカフェオレ色の川

アマゾン川はすべての流域面積を合わせると、オーストラリア大陸に匹敵すると言われ、世界最大です。

またブラジルだけでなく、いくつもの国にまたがって流れる大河であり、地球上でもっとも多くの生物種が住むエリアでもあります。

マナウス空港へ着く前、飛行機の窓からその景色が見えましたが、眼下の一面に広がる密林の間を、うねるような大河が地平線の彼方まで伸びていました。

けた違いの自然が広がるスケール感は、映画のジュラシックパークを連想させられます。そして実際に地上で見たときにも、思わず「おわあっ!」と感嘆の声がでました。

その大きさは川というよりは海と言える規模で、対岸の方向を見れば地平線の彼方で、見えません。

そして茶色く濁って水中は見えませんが、この下には無数の生き物が息づいているのです。

また、マナウスの近くはまっ黒い水の“ネグロ川”と、茶色い“ソリモエンス川”という、2つの支流が合わさる地点があります。

2つの川は水質の違いから混ざらず、コーヒーとカフェオレが合わさったような色となっています。

それは映画や小説のフィクションにも劣らない、不思議な光景でした。

さて、アマゾンの奥地を案内してくれるガイドとは、このマナウスの港で合流する約束になっていたのですが、ここで思いもよらない幸運に恵まれました。

ガイドの船には、ジャングル行きを望む数人がピックアップされていたのですが、その1人に日本人の方がいたのです。

あとはフランス人の若者やイラン人の夫婦などでしたが、在ブラジルの加藤さんという男性が、ポルトガル語を話すことができました。

そしてガイドが何と言っているかを、つねに教えて下さり、感謝をしてもし切れない出会いです。

1人では「??? ??? ??? 休む ??? ??? ???」くらいにしか理解できなかった言葉が、「今から1時間くらい船で進んで、対岸で少し休憩してから、別の船に乗り換えるみたいですよ」と、すべてを伝えて貰えるのです。

加藤さんとの巡り合いにより、ここから先の理解が、天と地ほども違うことになりました。

文明から原初の世界へ

奥地に行けば携帯電話の電波は、いっさい通じません。

最後のWi-Fiスポットで、Googleマップで地理を確かめようとしましたが、町を離れれば画面いっぱいの緑色で、地名さえ何の表示も無くなっています。

街を遠く離れると次第に電線や道路もなくなり、川と森だけに囲まれた景色になりました。

さながら原始時代へタイムスリップしたかのようで、わずか数日前には東京で暮らしていた事実が、はるか遠い出来事に感じられます。

人間の手が入らない森は、いたるところで植物が生存を競い合い、他の樹に倒れかかった朽ち木にコケが生え、そこから別の草花がいくつも伸びています。

植物同士のツルや枝葉は、いたるところで絡み合い、そのような密林がはるか彼方まで続いているのです。

またジャングルの中からはつねに、ギャーギャー、コロロロ、ギリッギリリ・・など、動物か昆虫か種族さえも分かりませんが、無数の生き物の声がつねに聞こえてきます。

そうして小舟に乗って支流を進んでいると、水面のあちこちに不思議な植物が生えている光景に出会いました。

木のてっぺんが水上に顔を出しているような姿で、さっそくガイドに質問してみました。

「君の言うとおりこれらは木の先っちょだよ。この下にはジャングルが沈んでいるんだ。」

最初はよく意味が分かりませんでしたが、いま進んでいる場所は、もともとは樹木の生い茂る森だと言います。

しかし乾期から雨季になると、想像を絶する水量がアマゾン川から流れ込み、森ごと水中に沈んでしまうエリアがあるのです。

訪れた4月は雨季でしたが、これは異常気象などではなく、1年を通して毎年の現象だと言います。

この一帯の植物はすべて、水中に沈む前提の生態となっており、もしこの水が透き通っていれば、眼下に森が見えていることになるのです。

水中のジャングルとはファンタジーのような話ですが、その天井を舟で横ぎっている絵を想像すると、何とも幻想的でした。

人は本当にとてつもないものに出会うと、すぐに「すごいですねー」などという言葉は出ないのだと、アマゾンに来てから知りました。

けた違いの光景を目にしたり、ガイドから未知の話を聞いたりするたび「ああっ」というため息や、「おおっ」といった感嘆詞ばかり口にしている自分がいました。

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※感想、応援メッセージは下のコメント欄から。みなさんの書き込みが、作者のモチベーションになり、活力になります。あたたかいコメントよろしくお願いします。by寺町新聞編集室

ABOUT ME
原田ゆきひろ
寺町新聞の執筆・取材を担当。Yahoo!ニュース歴史・文化ライターとしての顔も合わせ持つ。小学生の秘密基地から南米のアマゾン川まで、どこへでも探訪。そこにある興味や発見、人の想い。それらを分かりやすい表現で、書き綴るのがモットー。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き。 ※写真は歴史衣装・体験中の筆者
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