The Message

「自分が変われば、新たな道が見えてくる」フリーランス歴25年超のライターが語る“確かなキャリアの築き方”

「今の働き方で、この先大丈夫かな…」 

社会の変化のスピードを前に、漠然と不安になることがあります。しかし、自分が踏み出すべき一歩がわからないまま、時間だけが過ぎていく…。

変化の時代に生きる私たちは、どんな心持ちで日々の仕事に向き合い、キャリアを築いていけばよいのでしょうか?

今回お話を聞いたのは、フリーランスライター歴25年以上の小川真理子さん。2024年7月には、仕事が長く続く習慣を集めた自著『女性フリーランスの働き方』を出版しました。

小川さんは、どのようにライターの仕事を発展させてきたのか。その経歴を伺ってみると、現代に通じる「変化を生き抜く知恵」が見えてきました。

<プロフィール>
小川真理子。東京都出身。編集プロダクションにて、企業PR誌や一般誌、書籍の編集・ライティングに従事。退社後、フリーに。その後、広告会社で企業のWEBコンテンツ制作に関わりながら、企業や自治体、大学をクライアントとするPR誌の制作、ビジネス書籍の編集、執筆に携わる。現在は文章指導にも力を注ぐ。

出版業界での“修行”時代

ーーほっこりする表紙のイラストですね。

小川真理子さん(以下、小川):ありがとうございます。とても気に入っているんです。私は「バリバリ働くキャリアウーマン」タイプではないので、この自然体な感じがいいなと思いました。

ーー本のタイトルには「フリーランス」とありますが、小川さんはもともとは会社員だったそうですね。

小川:そうなんです。フリーランスになる前は、雑誌や書籍、PR誌などを制作する編集プロダクション(以下、編プロ)で働いていました。

ーー出版業界に興味を持ったきっかけは何でしたか?

小川:当時、直木賞作家の山田詠美さんが書いた、『熱血ポンちゃんが行く!』というエッセーを読んでいました。編集者と作家の日常の話がとてもおもしろくて、少しでもあの楽しそうな世界に近づきたいと思ったんです。

ーー憧れていた出版業界に入って、どうでしたか?

小川:入社してすぐ、「ライター・小川真理子」と書いてある名刺を渡された時は、嬉しかったです。初めの1回だけは先輩の取材について行って、「あとは自分で行ってきて」と言われて…それからは忙しい毎日でした(笑)。残業するのは当たり前で、徹夜をすることもありました。

ーー現実は厳しかったんですね…。

小川:そうですね。会社の先輩に、私の文章について辛辣なことを言われて、悔しい思いもしました。

ーーそんなこともあったんですか…。

小川:今思えば、私を育てようとして言ってくださったと思うんですよ。でも、当時は悔しくて悔しくて…。「絶対にうまくなってやる!」と思って、文章力を磨くために、新聞のコラムを毎日書き写しました。

結果的に、以降、先輩に原稿をチェックしていただいた際、修正されることが少なくなりました。文章スキルが上がったのだと思います。今となっては、厳しいことを言ってくれた先輩に感謝しています。

編プロ時代に、目の前の仕事に一所懸命取り組んできたことで、ライターとしてのスキルを身につけることができました。忙しい日々でしたが、振り返れば、編プロ時代のすべてが今の私の土台となっています。

今、仕事が「好き」じゃなくてもいい。自分の成長が鍵をにぎっている

ーー苦労があったからこそ、スキルが磨かれたんですね。そうはいっても、どうして長時間労働のライターの仕事に耐えられたんですか?

小川:確かに、人によってはすごく辛い職場だったかもしれません。でも、私にとって、仕事自体はとても楽しかったんですよ。次から次へと新しい取材の依頼が来て刺激的だったし、第一線で活躍されていた著名な方々にも取材できましたし。

ーー小川さんの「仕事が楽しい」という感覚は、一体何なんでしょう…?

小川:冒険みたいなものですね。仕事を通して、今まで知らなかった世界を知って、新しい体験をして、自分自身も成長することができました。

記事の企画や構成も自分で考えましたし、入社1、2年で海外取材にも行かせてもらいました。今考えると、よくそこまで任せてくれたなと思いますが(笑)。

ーー海外取材まで!好奇心が満たされるライターの仕事は、自分に合っていると思いましたか?

小川:当時は、仕事が合っているとか、好きだとか、正直自分でもよくわかりませんでした。

ーーえっ!

小川:仕事は、はじめから好きじゃなくてもいいと思うんです

自分に合うかどうかは、やってみないとわからないので、まずやってみる。少なくとも嫌いじゃなかったら、続けられますよね。やっていくうちに、だんだん仕事を覚えて、できることが増える。そうすると、たまに褒めてもらえるんですよ。

私も頑張って原稿を書いて「あの記事、おもしろかったよ」と言ってもらえた時は、すごく嬉しかったです。

仕事は、最初から「好き」とか「楽しい」とはっきりわかるものではなくて、続けるうちに自分が成長して、だんだん「面白くなっていく」ものだと思います

ーーなるほど。自分が成長することで、仕事の捉え方が変わってくると。

小川:もちろん、最初から目の前の仕事が好きで、楽しかったら一番いいですが、そんな人はなかなかいませんよね。だから、自分自身を磨き続けて、いろいろなことを楽しめる人間になれればいいと思うんです。

変化する世の中だから、自分が動いて変わればいい

ーー編プロで下積みをしたあと、どうやってフリーランスになったんですか?

小川:実家の諸事情で編プロを辞めることになって、次の仕事は何をしようかと考えていました。国際ブックフェアが開催されていたので行ってみたら、編プロ時代にお世話になった取引先の人に偶然会って、声をかけられたんです。

その方は私が無職だと知ると、「スキルがあるのにもったいない!」と言って、すぐに仕事のオファーをくださいました。

ーーありがたいご縁!

小川:そうなんです。最初にいただいたのは、音源テープを文字に起こして、原稿にまとめて、インターネット上に載せる仕事でした。

当時はインターネットの創成期だったので、web記事に対応できるライターは少なかったんです。その仕事を続けていったら、「小川さん、インターネットの仕事もできるんですか」と言われるようになって、仕事の依頼がどんどん来るようになりました

ーー時代の波に乗って、ひとつの仕事から発展したんですね。

小川:自分が行動しなければ、新しい出会いもありません。まずは国際ブックフェアに足を運んだこと、そして、新しいインターネットの仕事に挑戦したことは、本当によかったです。

ーー自分の行動次第で可能性が広がると。一方で、フリーランスは不安定なイメージがあるのですが、苦労したことはありましたか?

小川:そうですね…。例えば、2008年のリーマンショックの時は、それまで好調だったネット関連の広告の仕事が一気になくなりました。そのあと、私の母が病気になって、看病が必要になったので、その頃引き受けていた雑誌の仕事もできなくなった時期がありました。

当時、いただいていた雑誌の仕事は、締め切りを1日でもずらすことはできないし、出張も多かったので、看病との両立が難しくなったんです。

ーーえっ、そんな大変なことが…!

小川:普通に考えれば大ピンチですよね。でも、この変化が、私の働き方を変えるきっかけになりました。

ライター仲間が「書籍の仕事をやらないか」と声をかけてくれて、今まで経験がなかった領域にチャレンジすることになったんです。

ーー書籍の仕事とは、どんなことをするんですか?

ビジネス書や実用書では、ライターが著者に代わって執筆する本も多いです。世の中には素晴らしい知見を持った方がたくさんいらっしゃいますが、みなさんとても多忙です。そこで、ライターが著者にインタビューをして、一冊の本にまとめるんです。

ーー雑誌からインターネット、そして書籍へと、小川さんの仕事はかなり変化したんですね。

小川:はい。本一冊をすべて自分で書いた経験がなかったので、最初は難しそうだと思っていました。

でも、考えてみると、本は短い一つひとつの項目が積み重なって章になり、一冊になっているんです。実際にやってみてわかったことですが、雑誌の記事をまとめるスキルがあれば、本も書けます。これまでの経験や文章スキルが、すべて書籍の仕事に生かせました。
最初から「できない」と決めつけずに、なんでも「やってみる」という気持ちが大切です。やると決めたら、あとは覚悟して、うまくいくように努力する。すると、新たな道が開けてきます。

無意識のところに、働く父の姿がある

ーー小川さんは仕事を柔軟に楽しんでいるように感じるのですが、その前向きなエネルギーはどこから来るのでしょうか?

小川:そうですね…。「楽しむ」という点では、父の影響は大きいと思います。父は発明家で、魚の排泄物をエサとする微生物で水をきれいにする「生物ろ過装置」を開発していました。

子どもの頃から、新しい製品ができると、毎回私や兄弟の前でプレゼンをして、製品の良さを熱弁するんです。「これが売れたら、7階建てのビルが建つよ。住みたい?」と、いつも楽しそうに夢を語っていました。

当時はインターネットがない時代だったので、父は開発した商品の良さを伝えるために、東京の家を離れて、何日もかけて自ら全国を回りました。車いっぱいに商品を積んで、北海道から九州まで、各地の問屋や熱帯魚店を訪ねては、店主に直接会って商品を説明していったそうです。そして、相手に熱意が伝わると、商品が一つひとつ売れる。行動する父の姿を見て、子どもながらに楽しそうだと思っていました。

ーーお父さんの熱意は、子どもだった小川さんにも伝わっていたんですね。

小川:無意識の中に刷り込まれている気がします。父は85歳で亡くなりましたが、最期を迎える2か月前まで、製図版に向かって仕事をしていました。

ーーまさに「生きがい」。小川さんもお父さんと重なる部分があると感じますか?

小川:実はつい最近、私も父と同じようなことを、母の故郷である沖縄でしてきたんです。

今年7月には、初めての単著『女性フリーランスの働き方』を出版しました。それ以外にも、共著で本を7冊出版してきています。

沖縄の親戚に「あなたの本をお店で見かけるよ。置いてもらっているんだから、お礼に行かないといけない」と言われていました。いつか行かなければと思っていたのですが、8月に実現できて、沖縄の書店さん、20店舗くらいを回りました。

書店員さんにお礼を伝えて回るのが、とても楽しかったです。新刊『女性フリーランスの働き方』を置いていない店舗では、本の紹介もさせていただいて、「今後仕入れることがあればご活用ください」とひとこと添えて、自作のポップもお渡ししました。

ーー小川さんもお父さんのように、自分が作ったものを、直接伝えて歩いたんですね。

小川:父はよく「人に会うことが大切だ」と言っていましたが、本当にその通りだと思いました。

書店員さんと直接会って話すことで、「自分の本は、ここで売られているんだ」と実感することができました。売り場には限りがあります。大切なスペースに自分の本を置いていただいていることが、とても嬉しかったです。本を置いてくださっている書店さんにも、販売の手配をしてくれた出版社の営業の方にも、感謝の気持ちが湧いてきて、2泊3日の旅の間、毎日感動していました。

言葉の力を信じてきたライター人生。進むべき道が見えてきた

ーー小川さんはライターとして色々な経験を積んだのち、2018年には法人を立ち上げたそうですが、きっかけは何でしたか?

小川:「文章講座を開催してほしい」という依頼が増えてきて、文章術を伝えることに興味を持ちはじめました。ずっと続けてきた「書くこと」が、社会に求められていると知って、事業化したいと考えたんです。それを機に、編プロ時代の同僚で、ユニットを組んで仕事をしていた藤吉豊とともに、株式会社文道を立ち上げ、本格的に取り組もうと決めました。

ーー社名の「文道」には、どんな想いが込められているのでしょうか?

小川:この社名は、藤吉が書籍の仕事で関わらせていただいた、愛知県にある福厳寺の大愚元勝住職に命名していただきました。「文ハ 是レ 道ナリ」の略で「文道」。「書く行為は人生そのものである。書くことは、人がふみ行う道徳・道理である」という想いを込めていただきました。

ーー小川さんは、はじめて「文道」という社名を見た時、どう感じましたか?

小川:衝撃を受けました。私も藤吉も、ずっとライターを続けてきたので、まさに「書くこと」は私たちの人生そのものなんです。「文道」と名付けていただいたことで、会社の方向性が一気に定まりました。

私たちが書くことが、著者の人生を変えるかもしれないし、その先の読者の人生を変えるかもしれません。また、書いている私たち自身の人生も変わるかもしれません。「いろいろな人に寄り添いながら、文章を大切に書いていきたい」という想いがより強くなりました。

ーー名前が持つ力は大きいですね。これから株式会社文道として、どんな活動をしていきたいですか?

小川:言葉の可能性を広く伝えて、社会に貢献できればいいなと思います。

今、誰もが自由に言葉を発信できる時代だからこそ、言葉を大切に扱う必要があります。

以前、誹謗中傷で人が命を絶ってしまったというニュースを見て、胸が痛くなりました。無自覚に、人を貶める発言をしてしまうことで、言葉は人を傷つける武器になってしまうんです。

すべては、言葉を扱う人次第。言葉の力は、本当に大きいです。だからこそ、やさしい言葉を使う人が増えれば、もっと平和な社会になると信じています。

思いやりのある言葉を届けられたら、人を励ますことができるかもしれません。悩み、苦しんでいる人を救う可能性だってあります。

今後は、言葉の可能性を伝える側として、自分ができる役割を果たしていきたいです。

『女性フリーランスの働き方』好評発売中!2024年秋、文道とナーランダ出版のコラボ企画も…!

小川真理子さんの著書『女性フリーランスの働き方』が好評発売中です。

フリーランスの土台の作り方、取引先との関係を良好にするコミュニケーション、仲間とチームを組んで仕事をするコツなど、具体的な仕事術がぎゅっと詰まった一冊です。

これからフリーランスになりたい人も、すでに始めている人も、「より良いキャリアを築きたい!」という方は、ぜひ読んでみてください。

また、株式会社文道とナーランダ出版で企画した、大愚和尚の最新刊『言葉の力』が2024年秋発売予定です。私たちが日々使う「言葉」に秘められた「力」とは…?人生を豊かにする言葉の知恵を、ぜひお楽しみください。

(取材・文:柴崎彩夏 / 撮影:知哲和尚)

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