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この記事は筆者の原田幸文(こうぶん) が、さまざまなマンガ・アニメの中に、仏教と重なる部分を見つけ、ご紹介するシリーズです。
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以前、職場で行われた救急救命の講習で、人形を使った心臓マッサージのレクチャーを受けたことがありました。
そのとき講師から「こういう手の形で、このくらいの間隔でやってください」と教わったのですが、正直ずっと覚えていられる自信はありませんでした。
ましてや、誰かの呼吸が止まるという緊急事態に直面すれば、気が焦るに違いありません。そうなればなおさら、過去に教わった感覚など吹き飛んでしまいそうです。
そこで講師に、いざという時でも再現できるコツを聞いてみたところ「『アンパンマンのマーチ』を思い浮かべてください」と言われました。

https://www.anpanman.jp/otanoshimi
アニメのテーマソングである『アンパンマンのマーチ』。この曲が刻むリズムと、心臓マッサージで手を押す間隔は、ほぼ同じなのだそうです。(※1分間に100〜120回 )
レクチャーをきっかけに、僕は大人になってからはあまり気にすることがなかった、アンパンマンに対して興味が沸きました。
そこで作者の“やなせたかし”さんの自伝や、制作秘話の書籍を読んでみたところ、作品の背景には仏教の教えと重なる部分が、数多くあることに気がつきました。
アンパンマン誕生の原点

やなせさんは戦時中、軍隊に所属し中国へ派兵されていました。終戦を迎えて帰国すると、 町という町が焼け野原になっていたのです。
くず拾いの仕事をして、日銭を稼いで何とか食いつなぐ中、散乱している物の中に1冊の雑誌を見つけます。
拾い上げてページをめくると少し気持ちが明るくなり、かつて抱いていた作家やマンガ家への夢を、思い出したそうです。
そうした日々の中、いちばん辛く記憶に残っているのは、ほとんど食事にありつけなかった時期のことです。
とにかくお腹が空いて、空いて、仕方がなく「こんなときに、もし食べ物を分けてくれる人がいたら」と考えました。そんな思いが、後にアンパンマンの発想へつながります。
人は誰でも自分や家族、大切な人を守ろうとします。けれど、顔も名前も知らない誰かにまで、同じように手を差し伸べるのは、むずかしいものです。
仏教では、自分と他人を分けずに相手に寄り添う心を慈悲心と呼びます。いつも行く先々で出会う、どんな人も助けて回るアンパンマンの姿は、まさに慈悲心を体現しているように見えました。
本当のヒーローや正義とは?

もうひとつ、やなせさんが大きく苦しんだ経験があります。彼が信じてきた正義が、戦後には一転して否定されてしまったことです。
軍隊時代のやなせさんは、自分の働きが日本や世界のためになると思い、命がけで頑張りました。
ところがGHQ(アメリカ軍を中心とした統治機関。戦後、約6年半にわたって日本を占領した)による統治が始まると「日本が行ってきたことは悪であり、悔い改めなければならない」と教えられるようになります。
やなせさんは「正義っていったいなんだろう」と思い悩んでしまいました。やがて、日本の復興が進むと人々の生活も安定に向かい、娯楽の種類も増えていきます。
中でも屈強なヒーローが悪を打ち倒す、漫画やアニメが大人気となりました。しかし、やなせさんは一連の体験からこう考えました。
「本当のヒーローとは、特別な存在じゃない。あんまりカッコ良くなかったり、情けないところがあったりする、普通の人だっていい。飢えている人に、食べ物を分け与えてあげられるような、そんな心の持ち主こそが本当のヒーローなんだ」。

だからこそ強いヒーローが、ただ敵を打ち倒すストーリーには、あまり共感できなかったのでした。
ちなみに、マントをつけて空を飛ぶアンパンマンは、いかにもヒーローらしいキャラクターです。一方で、少しでも顔に水がかかったり、カビに襲われたりすると、へなへなになってしまう弱々しい一面もあります。
ちょっとやそっとでは屈しないヒーローとは違い、いくつもの弱点が目立つキャラクターといえるでしょう。ここは「平凡な人間だって、行動や思い次第でヒーローになる」という、やなせさんの信念が反映されている部分です。
仏教もまた、選ばれた人だけへの教えではありません。むしろ真逆で、すべての人が実践できる教えとして、説かれています。
「自分が特別にできることは、何もない」と考える人に対しても、それぞれの力や才能に合わせての実践が説かれ、大きく重なる部分を感じました。
背景を知ると一変する見え方

僕も子どもの頃にアンパンマンが好きだったものの、特別な感動を覚えることはありませんでした。
例えばアニメの第1話目に、ジャムおじさんが「いいかい。お腹が空いた人を探して、食べさせてあげるんだよ」と言って、アンパンマンを送り出すシーンがあります。
それを見ても「ジャムおじさんは、いい人なんだな」くらいにしか思いませんでした。しかし、やなせさんの人生を知った上で見ると、まるで違って感じられます。
戦後の焼け野原に重ねて「お腹が空いた人に、食べさせてあげるんだよ」というセリフを聞くと、心を揺さぶられずにはいられません。
また、やなせさんは晩年「マンガ家とは、いつでも人を楽しませる存在でなければ」と考えていたと言います。
そこで人前に出る時はいつも、テンガロンハットをかぶってサングラスをかけ、カウボーイブーツというユニークな格好をしていました。
こうして作品の中でだけでなく、日常から周りを楽しませようとする姿は、仏教で言う和顔施(わがんせ:お金や物がなくても、いつも良い表情で人に接することで、人々の心を明るくすること )の精神にも通じます。
現在、町を歩けば幼稚園の送迎バスや、デパートや薬局のキッズコーナーなど、あらゆるところで見かける、アンパンマン。きっとやなせさんの純粋な想いは、どれほど時代が変わったとしても、人々の心に届いて行く気がしてなりません。
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※当記事に掲載している“やなせたかし”さんのエピソードは、以下の書籍を参考にさせて頂きました。
『アンパンマン伝説』(やなせたかし/フレーベル館 ※1997年版)
『アンパンマンの遺書』 (やなせたかし/岩波現代文庫)
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