2022年10月29日、秋風で木の葉が揺れる音が遠くに響く中、福厳寺にて秋の授戒会(じゅかいえ)が執り行われました。
この日は、遠くは北海道から、さらには海を越えて海外からも17名が集いました。大愚和尚からお一人ずつ「戒名」を授かり、今日この時、この場所を「心のふるさと」として、新たなスタートを切りました。
本記事では、3回にわたって授戒会の様子をお伝えしていきます。
「授戒会では何をするの?」「なぜ名前(戒名)を授かるの?」「私でも参加できるの?」と授戒会にまつわる疑問を抱いている方は多いかもしれません。
この記事が、そのような方の参考になれば幸いです。
目次
「授戒会」のはじまり
授戒(じゅかい)とは戒を授かると書きますが、授戒会に参加する人は、檀家や会員以上に、どちらかというと僧侶に近い意識を持って、仏教徒としての生き方あり方を目指す立場と言えます。

その昔、仏教は「経典(文字の羅列)と仏像」という形で中国から日本に伝来しました。当時は文字を読めない人が多く、経典を読むことさえかなわない状況でしたが、やがて優秀な僧によってその内容が解明され始めます。
そこで、中国から高僧を招き、仏教の教えを直接学び、仏教徒として生き方を伝授していただこうという計画が立てられます。それが754年の鑑真(がんじん)の来日です。この時が日本で最初の「授戒」でした。そして、その授戒を受け仏教を伝授された証として授かったのが「戒名」でした。
授戒会は「人生の再スタート」
室町時代の仏教的な葬送儀礼の広まりとともに、戒名は亡くなってから授かるものとして、授戒は形骸化し、江戸時代から始まる、檀家制度により、さらにその意義は薄まって現代に至ります。
(ここに関しては、今後詳しくお伝えします。)

しかし令和の今、佛心宗を立ち上げた、大愚和尚はこう考えます。
過去を憂い、未来に絶望しながら生きる人、
これまでの自分を離れ、新しい自分に変わろうと努力する人にとって、
仏教徒としての新しい名前を授かる授戒会は、人生のやり直しの転機となる
授戒を機に仏教の教えに触れて、残りの余生を、後悔のない、穏やかな人生にしていく。
親からもらった名前は、これまでの感謝とともに大切にしながら、
仏教徒としての新たな名前は、その名前に相応しい生き方の指針として生きる。
そして、この場所は、人生の再出発、その原点として「心のふるさと」ととなる場所である。
大愚和尚はそのように語られます。
再出発に向けて
授戒会開始の1時間前。やや緊張した面持ちの参加者が、ぞくぞくと集まり始めます。

全員集合したところで、僧侶より儀式作法の説明を受けます。

こちらは、五体投地(ごたいとうち)の練習風景。五体投地とは、両ひざ・両ひじ・頭の五点を地につけて行う拝礼で、仏教において最も丁寧な礼拝方法の一つといわれています。

緊張と期待が入り交じる中、授戒会の開始を待ちます。授戒会に服装の決まりはありませんが、多くの方が落ち着いた色の服装で臨まれていました。

大愚和尚入堂、授戒会開始
14時、いよいよ大愚和尚の入堂です。

参加者全員で五体投地。堂内は一層厳粛な空気に包まれていきます。

開山堂、千手堂にて礼拝
読経後、大愚和尚は本堂の奥にある「開山堂(かいざんどう)」へ移動

参加者も奥の部屋へ。本堂の裏に立ち入る機会は希少です。

「開山堂」は福厳寺の初代住職様「御開山」をはじめ、歴代の住職様のお位牌(いはい)がまつられている場所です。ここでも再び五体投地をし、御開山へのご挨拶いたします。

大愚和尚は、さらに奥にある部屋で、新しい仏弟子の誕生をお伝し、歴代住職への感謝の法要を執り行います。
福厳寺がこんなにも奥深く広がっていることにも驚きです。

続いて参加者は、「千手堂(せんじゅどう)」へ。
千手堂は、福厳寺のご本尊である、千手観音様が見守る納骨堂で、福厳寺の540年を支えた、歴代のお檀家さん、そして福厳寺の創建に尽力された、西尾道永(にしおどうえい)氏のお位牌がまつられています。
千手観音はの千の手には、生者も死者もあらゆるものに手を差し伸べ、その苦しみに寄り添い、勇気や希望を与える、という意味が込められています。

灌頂(かんじょう)
再び本堂に戻り、大愚和尚より灌頂を受けます。灌頂とは、頭に清らかな水を注いで、その人がある位に進んだことを証する儀式です。水をつけた筆先を頭に軽く当てます。

血脈(けちみゃく)授与
血脈は、お釈迦様から仏法を脈々と受け継いできた僧侶のお名前が書き連なる大切な書です。その末端には、大愚和尚の名も記され、大愚和尚から授戒者へ、仏法が伝授された証となります。

大愚和尚のお話、そして戒名授与
ここで大愚和尚がお話を始めると堂内の空気が一瞬にして和らぎます。(大愚和尚の法話は、レポート#3へ)

そして、いよいよ戒名の授与です。額装をされた戒名の証書が大愚和尚から、授戒者一人一人に手渡しされます。

ご自分の授かった戒名と初めて向き合うお姿が印象的です。

大愚和尚退堂、授戒会終了
すべての儀式が無事に執り行われ、大愚和尚の退堂にて終わりを迎えました。

茶話会
終了後はほっと一息、大愚和尚を囲む茶話会です。お下がりの和菓子とバウムクーヘンを美味しいお茶とともにいただきました。

先ほどの厳粛な儀式とは一点し、終始笑顔で楽しいお話で場を和ませる大愚和尚

戒名をいただいた喜びを噛み締めながら、ゆっくりとお茶をいただきます。

僧侶のお二人も、温かな笑顔で最後までお付き合いくださいました。

編集後記
いたずらに死に向かわずに、なすべきことをなしながら穏やかに生きる。そして、その自覚を促すのが戒名であるーー
授戒会に参加し、新たに「心のふるさと」を得た参加者の皆さん。授かったばかりの戒名を見入る背中からは、まるで生まれたての赤ん坊が産声を上げる時のような、得も言われぬ力強さを感じました。
この日、17名の参加者はともに人生の再スタートをきりましたが、抱えている思い、背景は千差万別です。次の記事では、戒名の成り立ちとともに、実際に戒名を授かった参加者の皆さんの思いにクローズアップしていきます。
なぜ授戒を決意したのか?授戒した今思うこととは?今ここに再出発を図った皆さんのそれぞれの想いをお聞きください。(レポート#2は、こちらから)
桐嶋つづる